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金曜時評

登録の原点は何か - 編集委員 増山 和樹

 ゴール目前とみられていた「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」の世界文化遺産登録が、大きく後退することになった。政府はこのほど、ユネスコへの推薦をいったん取り下げ、構成資産などを見直すことを決めた。

 ユネスコの諮問機関である国際記念物遺跡会議(イコモス)が、予想以上に厳しい評価を下したのが原因という。イコモスは推薦のあった世界遺産候補について「登録」から「不登録」まで4段階で勧告し、石見銀山や平泉の「登録延期」は記憶に新しい。今回は新たに導入された中間報告の結果だが、関係者の動揺は大きいようだ。

 県内でも「飛鳥・藤原の宮都とその関連資産群」が政府の推薦待ちで、構成資産の協議が続いている。世界遺産のハードルは高まる一方といわれ、“先輩遺産”同様の試練が続くと腹をくくる必要があるだろう。推薦の前提となる暫定リスト入りは今回の「長崎」と同じ平成19年だった。

 奈良県は全国の都道府県で最も多い三つの世界文化遺産を有している。平成5年に登録された「法隆寺地域の仏教建造物」は、姫路城と並んで国内の登録第1号となった。それから20年あまり。新たな世界遺産誕生への期待も大きいが、登録の意義をあらためて見つめる時期も来ているのではないか。

 世界遺産条約は、その目的を「人類全体のための世界の遺産としての保護」とそれに向けた「国際的な協力及び援助体制の確立」にあるとしている。国内では観光本位の感が強く、登録によって観光客が激増し、構成資産の傷みが進むという本末転倒の事態もみられる。

 国内最多の世界遺産を有する県として、登録によって何が守られ何が変わったのか、所有者だけでなく、地域住民や文化財の専門家も入れて検証し、全国に発信してはどうだろう。今後の登録の動きにも有意義に働く。

 ユネスコなどの後援を受けて県と文化庁が主催した平成6年の「世界文化遺産奈良コンファレンス」(奈良会議)では、文化の多様性を盛り込んだ「奈良文書」が採択され、「木の文化」の評価に大きな道を開いた。

 奈良県は国内の世界遺産を考える上で欠かせない場所である。登録の原点から今後の世界遺産の在り方を考える。先進地として、県が中心的な役割を果たすことを期待したい。

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