募集「悩み」や質問募集 僧侶3人がお答えします

歴史文化

【深掘り】15世紀半ばの「嶋城」はどこか - 奈良県平群町

関連ワード:

 中世に奈良県平群町にあったと推定される「嶋城」。同町教育委員会の葛本隆将学芸員は嶋城の位置に関する分析成果を、「平群史蹟を守る会」の機関誌「烏兔(うど)」第100号にまとめた。戦国時代(16世紀半ば)の嶋城については、石仏の調査成果から平等寺館(同町平等寺)の可能性が高いことを明らかにした。ただ文献では室町時代(15世紀半ば)にも「嶋城」が登場する。葛本さんによると、室町時代の嶋城は戦国時代とは別の場所にあったと考えられるという。

 

 

「嶋城」が登場する長禄の龍田合戦

 室町時代の「嶋城」は、1460(長禄4)年の龍田合戦の記録に登場する。

 

 当時、室町幕府の管領・畠山家では、畠山持国の子・義就(よしひろ、1435~52年)と甥・政長(42~93年)の間で家督争いが勃発。その波は大和国にも押し寄せた。

 

 60年、河内を拠点にしていた義就が龍田に攻め込んだ。龍田は現在の斑鳩町龍田付近。政長方の龍田氏が地盤としていた地で、義就は龍田氏の居城・龍田城の攻略を狙ったようだ。

 

畠山政長方の龍田氏の居城、龍田城跡=斑鳩町龍田南5

 

 当時の日記「大乗院寺社雑事記」によると、義就方と政長方は「龍田西口」で合戦となった。義就方は数百人が討たれて撤退。義就は信貴山まで退いた後、嶽山城(大阪府富田林市)へ逃げたという。

 

 龍田西口について、別の日記「経覚私要鈔(きょうがくしようしょう)」では「陶御與(とみよ)河原」と記す。ただ葛本さんは「富雄川は龍田の地から離れた東方にあり、竜田川の誤報です」と指摘。「戦場は現在の龍田大橋から三室山付近にかけての竜田川西岸に広がる低地帯だったと考えられる」と話す。

 

 

義就の進軍ルートを復元

 経覚私要鈔には「河内より右衛門佐方当国に乱入」などとあり、義就方は河内から大和へ攻め込んだことが分かる。ただ詳細な経路についての記されていない。そこで葛本さんは義就軍の進軍ルートを検証した。

 

 注目したのは、進軍と時を同じくして立野(三郷町立野)が焼き払われたとのうわさが流れている点だ。

 

 同日記を書き残した興福寺大乗院前門主・経覚は、立野焼き討ちの情報が入ると、事実を確かめるために使者を派遣している。その結果については日記に記されていないが、葛本さんは「わざわざ使者を派遣してまで事の実否を確かめようとしていることからも、義就軍は立野を通ったのではないか」と推測する。

 

 その際の侵攻ルートは、立野付近を通過する「国分越(亀瀬越)」だったとみる。大和国内に存在した主要幹線道路を書いた江戸時代の「大和里程著聞記」によると、国分越は郡山から筒井(以上、大和郡山市)、龍田、龍野(立野)を経由して河内国国分(大阪府柏原市)に至った。

 

 

義就方の別動隊の侵攻ルート

 義就方は本隊が竜田川西岸で政長方と戦った一方、別動隊が「平群の嶋の在所」「部栗(平群)嶋城」に攻め入っていた。経覚私要鈔によると、義就軍は指揮官の作戦が失敗、手勢のほとんどが討ち取られたという。

 

推定される義就方の進軍ルート

 

 嶋城に押し寄せた義就方の別動隊はどのようなルートをたどったのか。

 

 葛本さんによると、考えられるのは二つ。一つが主戦場の龍田西口から竜田川沿いに北上して椿井橋付近に至るルート。およそ現在の国道168号に一致する経路だ(上図の①)。

 

 もう一つが三郷町三室付近から北へ進み、丘陵を越えて椿井橋付近に至るルート。こちらは現在の県道椿井王寺線にほぼ一致する(上図の②)。

 

 地理的な環境などから、葛本さんは「①は一時的に敵に背を向けることになりかねない。移動距離や時間を短縮する意味でも②の方が可能性が高い」と話す。

 

 

「嶋城」はどこか

 それでは、本題となる義就方の別動隊が目指した嶋城はどこにあったのか。

 

 参考としたのは大和里程著聞記にある「龍田越(十三越)」の記述。平群谷を通過して河内と大和を結ぶ龍田越は、中継地に「西ノ宮村」の名がある。西ノ宮村(平群町西宮)は江戸時代には平群谷の交通の要衝だったようだ。

この記事の残り文字数:973文字
(写真枚数:2枚)

この記事は歴史文化ジャンルの有料記事です。
続きをご覧になりたい方はログインまたは会員登録をお願いします。

初月無料で今すぐ見る
(会員登録画面へ)


奈良新聞デジタルの有料プランに入ると

  • 月額550円から有料記事が読める
  • 広告なしで快適に閲覧(一部バナーを除く)
  • 上位プランで紙面宅配や紙面ビューア利用可

購読お申込みの案内はこちら

関連記事

特集記事

人気記事

  • 奈良の逸品 47CLUBに参加している奈良の商店や商品をご紹介
  • 奈良遺産70 奈良新聞創刊70周年プロジェクト
  • 出版情報 出版物のご購入はこちらから
  • 特選ホームページガイド