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大和古寺お参り日記 【3】 - 岡寺(上)

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 古代、国の中心として栄えた飛鳥。時が巻き戻されたのでは、と錯覚しそうなのどかな田園地帯を抜け、明日香村の東、山の中腹にある岡寺を訪れた。

 

 創建は約1300年前。天智天皇の勅願を受けた義淵(ぎえん)僧正が建立したとされる。飛鳥の地を荒らしていた悪龍を義淵が池に封じ込めて大きな石で蓋(ふた)をしたとの伝承から、龍蓋寺(りゅうがいじ)とも呼ばれてきた。

 

義淵僧正が龍を鎮めて蓋をしたと伝わる龍蓋池

 

 

 境内に残る龍蓋池は周囲に玉垣が巡らされ、中央に意味ありげな石が立つ。よく見ると、下に平らな石があり、まるで重しのように置かれているのが分かる。今もこの池に龍は眠るのだろうか。池をのぞいてそっと呼びかけてみる。

 

 

中央にたてられた石

 

 池の前では雨乞いの法要や祈祷(きとう)が行われたとも伝わり、荒ぶる魂は人々に恵みの雨をもたらす龍となり、今もこの地を静かに見守っているのかもしれない。

 

 飛鳥時代に水の祭祀(し)を行ったとされる酒船石遺跡の亀形石造物は岡寺から徒歩20分ほど。その水源がこの池だったと考える人もいるという。江戸時代以前の詳しい資料がほとんど残されておらず謎に包まれた同寺には、隠れた歴史が多くあるのかもしれない。確証のないことを想像してみるのも、古寺参りの楽しみの一つ。

 

 奥の院へ続く参道には「るり井」もある。弘法大師ゆかりの厄除け霊水として以前は遠方から水をくみに来る人もいたという。冷たい水が今も湧き出ており、のぞいてみると水面が近い。深い井戸を想像していたので驚いたが、水量が豊富な証し。井戸の横には山からの水も小川となって流れている。

 

奥の院に向かう途中にある「るり井」と掘られた岩

 

今も水が湧き出る井戸

 

山から流れてくる水

 

 珍しいツルアジサイが咲く静かな森は、古代から止むことなく飛鳥に水を送り出してきたに違いない。その水こそが、境内に鎮まる龍なのだろう。

 

 (文・伊藤波子 写真・藤井博信)

 

 =次回は6月19日に掲載予定=

 

 

 ▽岡寺/高市郡明日香村岡/電話0744(54)2007。

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