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大和古寺・お参り日記【2】 - 正暦寺(下)

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 来山者を最初に迎える福寿院の客殿(江戸時代・国重要文化財)は、正暦寺創建から690年後の1681(延宝9)年に建立された。大原弘信住職に案内していただき、その景観の美しさにため息が漏れた。

 

 板ぶき屋根の数寄屋風建築で、庭の塀を低くすることで縁側からの景色が一つの絵画のように見える。四季折々に庭を彩るモミジをはじめ、前方に広がる菩提山の景観を含めた全てが福寿院だと言えるだろう。

 

客殿との調和が素晴らしい庭からの眺め

 

 

 さらに、水音がする。すぐそばを流れる川の水音が心地よい。聞けば、水音を聴かせるために庭の前を流れる川に石を並べ、石畳にしてあるのだという。千年前に情緒をつくる工夫がなされていたことに驚いた。客殿と庭だけでなく、優雅な景色がこれほどに一体化した場所を見たことがない。

 

水音が聴こえるように工夫された石畳のある菩提泉川

 

 そこから見える山の稜線は、2匹の龍のようだと伝えられている。稜線を眺めてみると、龍はどっしりゆったりと菩提山を取り囲み、守りを固めているようにも思えた。

 

龍にたとえられる山の稜線

 

 秋には赤や黄色に色づく美しいモミジだが、同寺では新緑の青緑に深い意味があるという。薬師如来の浄土は瑠璃光(るりこう)世界と呼ばれ、瑠璃はサンスクリット語で青いサファイアのこと。日本では信号でも青は緑と表すことが多い。

 

 境内には落葉樹のカエデやケヤキ、イチョウが数多く植えられ、それらの木々が、新緑に包まれた美しい瑠璃光世界を出現させる。

 

瑠璃光色とされる新緑のモミジ

 

かわいらしいモミジの花

 

 大原住職は「山に入ってこられた方が心身を浄化していただくことを願って本堂でお勤めをしています。心と体の健康を願い、皆が幸せになってほしいという思いでお迎えしたい」と優しく語る。

 

 自然を楽しむ優雅な和の情緒と瑠璃光世界を体感し、心安らぐ時間を過ごせた。

 

福寿院から見る新緑の景観。瑠璃光世界を感じさせ、いつまでも眺めていたい

 

 (文・伊藤波子 写真・藤井博信)

 

=来月は明日香村の岡寺を訪ねます。奈良新聞デジタルでは番外編も掲載中=

 

▽正暦寺

奈良市菩提山町

電話:0742(62)9569

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