第50回 骨折して分かったこと - 1カ所が全体に影響
先月、足指の骨を折った。顕微鏡の台座が足に落ちてきたのだ。骨折したまま、重い荷物を動かしたので、少し骨がずれてしまい翌日は足の甲まで腫(は)れてしまった。さすがに怖くなってレントゲンを撮ったら、見事に割れていた。その後、アルミ板を足に敷き、そこに足指と足全体をテープで固定していた。
骨折には、治りやすい部位と難治性の部位がある。鎖骨骨折などは治り難い。場所によっては、血流や固定のしにくさ等の理由で、治り難い場所があるのだ。治り難いと、何カ月も痛みが続く、さらに時間が経つと、偽関節と言って、本来関節がないところでも、骨折部分が関節のように曲がるようになることもある。
幸い今回は、骨の接合が容易な部位だった。とは言え、10日間は歩くのにも困った。特に足を身体より上げていれば、痛みもないが、椅子などに座り足を下げれば、徐々に激痛が走るようになる。血液、リンパ液が、足を下げることで溜(とど)まり、局部を圧迫し、神経を刺激する。
身体はバランスだ。小さくても、1カ所に問題があっても全体に影響する。
以前、銀座の有名なフランス料理店のシェフが、「足の指を骨折したら、味が分からなくなった」と言っているのを聞いたことがあった。「そんなこともあるものか」と、不思議に思っていた。
しかし、私の場合も同じだった。私の場合は、脈がよく分からなくなったのだ。脈診は、微妙な感覚を手の指先で拾う。その感覚が、だめになったのだ。「足の指と手の指は繋(つな)がっている」と改めて感じた。当たり前だが、医学部では教えてくれない知識だ。
東洋医学では、人の身体は部品の数々の集まりではなく、一つの流体と考える。1カ所に圧力をかけると、水の広がる波紋のように別所に影響が伝わる。まさに今回の、足の指から手の指へのようにだ。
西洋医学では、骨折は骨の問題だけに過ぎない。そこだけしか診(み)ないし、そこだけしか治療しない。
しかし、東洋医学では、全体の問題として診る。骨折の痛みで鬱(うつ)になることもあれば、味も分からないこともあることを前提に、治療をすることになる。骨折で動けなくなり筋肉量が落ちたり、循環器が弱くなることもある。
ちなみに、レントゲンを撮ってくれた整形外科医からは何も言われなかったが、診てくれた整骨院の鍼灸(しんきゅう)師からは、「骨折は良くなるが、その後腰が痛くなることが多い」と言われたが、その通りになった。片足が悪い時は跛行(はこう)することになり、腰に負担がかかり腰痛になるという。
手足など、身体の全ての部分を大切に意識することが、身体全体を大切にしていることにつながるのだ。