漢方診療日記

第49回 無意識 - 病気を治したくない心

「心と身体は一体だ」と、よく言われる。漢方の世界では、「心身一如」などと言われる。一般には、「ストレスを受けると身体に悪い」などの意味で捉(とら)えられていることが多い。でも、漢方診療をしていると、そんな症例をたくさん経験する。


24歳・女性、事務職―。


5年ほど前から膠原(こうげん)病で病院に通院している。症状が改善されないため、漢方外来に来院した。


話を聞いてみると、「痛みで仕事もできない状況」だという。早く復帰したい、という。1年の通院後、膠原病の症状は軽快し、働けるようになった。しばらくして彼女は、漢方外来に来なくなった。症状も改善したこともあり、私は安心していた。


ところが、2年して彼女が「難治性の頭痛」で来院した。どこの西洋医学の病院でも、良くならないという。現代医学で検査しても、全て正常だという。精神科に紹介されそうになったが、断ったという。そして以前、膠原病でお世話になったことから、私の外来に来院した。


何回目かの診療日、少し時間があったため、彼女とゆっくりと話をすることができた。いろいろな雑談の中から、私は「彼女は病気を治したくないのではないか」と考えるようになった。それとなく確認すると、やはり彼女は「病気の時は、みんなが優しくしてくれて安心だ」という。「病気が治れば働けるか不安」ともいう。そんな彼女は5年以上、いろいろな病名で医者にかかっている。


彼女は表面意識では、病気は治したいと思っている。そのため、私の外来にも通ってくる。しかし、意識下では、病気でいる方が安心、つまり病気を杖に使っているようなのだ。


それ以降の外来で、彼女にそのことを自覚させようと徐々に話をしていった。「病気でなくても人は優しくしてくれること」を少しずつ分からせた。半年経った頃、彼女の頭痛は少しずつ消えていった。


「人の行動の8割以上は、無意識下の心が決めている」と言われている。病気は治さなければならないことは、常識として彼女は認識していた。そして病院にも来ていた。


でも、日常生活での食事や入浴で身体を温めるなど、自分の身体を気遣うことはしなかったらしい。現在彼女は、元気に事務職に就いている。ここ数年は健康だという。


彼女のような分かりやすい例だけではなく、身体に悪いと分かっていながら酒の量が多かったり、食事の塩分が濃すぎたり、また危ないことも分かっていながら、クルマのスピードをつい出してしまったりすることがある。


これらの行為の一部は、心に原因があるようだ。あらためて自分自身を見つめ直してみると、いつもの自分の行動の理由が分かるかもしれない。

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