漢方診療日記

第48回 行きつけの漢方専門の本屋さん - 一見客は来ない営業

漢方を勉強するために、よく通った本屋がある。変わった本屋で、マンションの一室で営業しているため、外からは分からない。一見(いちげん)の客は、絶対に来ない。私も人から紹介されて知った。


先輩に連れられて、漢方を勉強するために、この本屋に多くの研修医が訪れていた。


漢方専門の本屋は珍しく、当時、初学者の私はよく通ったものだ。漢方の本は高い。発行部数が少ないために1冊最低5千円はする。また、内容が難解で、自分の力量に合った本かは、しばらく読んでみないと分からない。


さらに東洋医学では、書籍の切り口が多様で、題だけ見ても分からない。


例えば、「葛根湯(かっこんとう)」の説明の記述でも、西洋医学的な成分分析が載っているものから、葛根湯が載っている古典の『傷寒論』という原典の解説をしているものまである。中にはエッセイ調の本もあり、眺めるのが楽しい。


この本屋が、どうやって食べていくのかと不思議でならなかった。一般の本屋は全て路面に入り口があり、入り口には新刊のポスターや新刊雑誌が並べてある。でも、この漢方専門の本屋は看板すらない。郵便ポストに小さく書店の名前が書かれている。


しばらくして、その本屋の秘密が分かった。出張専門なのだ。東洋医学会の学術総会など、大きな集まりが1年に1回必ずある。そこには、学会の会員の医師や、薬剤師や鍼灸(しんきゅう)師が千人単位で集まるのだ。その学会の開催期間の3日間にブースを出して、売りまくるのだという。


東洋医学系の学会だけでも年に数回あるが、現代医学の内科、外科、耳鼻科、小児科などの学会でも、漢方を勉強している先生は多いためため、商売として成立するという。


つい先日も久しぶりに、その本屋に行ってきた。ところが、そこの主人の元気がない。いつもいる事務の女性もいない。聞くと経営が苦しいのだという。事務員も辞めてもらった、という。


また、学会にもあまり行かなくなったというのだ。なんでも、大手の書店が東洋医学の本ばかりを集めて、同じようにブースを学会に出すようになり、売り上げが半減するのだという。


「最近の研修医は本を読まなくなった」と初老の店主は言う。確かに私も、研修医は「ipad(アイパッド=タブレット型の薄型コンピューター)」を使って漢方を調べたり、ipadに書き込む姿を、最近よく見るようになった。若い医師が、漢方の本質を勘違いしなければ良いが。


先輩が使っている、よさそうな漢方の教科書を、Amazon(アマゾン=インターネット通信販売のサイト)で、当日配送で買える時代だ。書店を路面店にして専門書を並べると、東京ではやっていけるとは思うが、初老の店主には気力がないのだろう。


書店に行くと、知らない本との思わぬ出合いがうれしい。今回も、買うつもりのなかった漢方書籍を、たくさん買ってしまった。

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