第46回 医療の効果 - 不調を癒すのは自分
昔と比べて寿命が長くなった。一般的には医学が発達したことが大きな理由だと思われている。私もそう思っていた。
著名な医学雑誌「New England journal of Medicine」の編集長Ingelifinger は、いろいろな症例の治療経過を追跡すると、「近代医療を適応しても、80%の患者は別によくも悪くもならず、あるいは自然に落ち着くところに落ち着く」ことを発表した。
医師の働きは、それが有害でない限り、これらの原則的な経過に影響することはないという。
10%をやや上回る症例においては、確かに医療的な介入が劇的な成功をみせている。
ただし、残り7、8%は「医師の診断や治療が適当でなかったために不幸な結果を招いている」―つまり交通外傷など、救命救急を必要としているような症例では、助かる人が少し出てきたが、もともと、将来良くなる病気の人は、医者の介入如何(いかん)に関わらず治るということ。もちろん、その過程での痛みが、現代医学の恩恵で少なくなったり、治療経過が短くなることはあるだろうが…。
面白いのは、江戸時代の医師、永富獨嘯庵(ながとみ・どくしょうあん)が書いた『吐方考(とほうこう)』の一節である。
「凡(およ)そ病者百人、治せずして癒ゆる者六十人、その余四十人、十人の者は治すといえど必ず死す。十人の者は治を得て必ず活く。十人の者は死せずまた癒えず。其の命、治、不治の間に在りて権衝し、医人に属する者十人のみ」
つまり、江戸時代、患者が100人いれば、別に治療しなくても60人は勝手に治り、10人は治そうとしても死んでしまう。10人は医療が効いて良くなる。10人は治療しても同じ状態。良い医者にかかるか悪にかかるかで、予後が変わって来るのは10人のみだ、ということだ。
医者によって予後が左右されるのは、最近のデータと同じ、10パーセント前後ということだ。
しかし、実際は平均寿命は伸びている。それは定期的な食事、暖かい部屋、清潔な生活環境などのため、病気にかかるリスクは少なくなってきたことが、結構大きく影響しているかもしれない。
病気になったら病院に任せるのではなく、身体の調子が少し悪くなった時点で、食べ物や環境を変えて反応をみることが、体調に大きな影響を与えていると思う。