漢方診療日記

第43回 扁鵲の六不治 - 現代にも通じる教訓

古代中国の名医と言えば、扁鵲(へんじゃく)である。扁鵲のことは、司馬遷の書いた中国の歴史書『史記』の中で、『扁鵲倉公伝』にて記されている。名医の代名詞だ。立派な医師が現れると「扁鵲の再来」などと表現される。


扁鵲は春秋戦国時代の人で、紀元前3~8世紀に活躍したとされる。ただ、活躍期間が長すぎて「複数の医師団の総称だ」とする説もある。いずれにしても、漢方や鍼灸(しんきゅう)の祖師である。


その中に、医者が治療しても患者の病気が治らないパターンが説かれている。扁鵲の「六不治(ろくふち)」である。

 

一、驕(おご)り高ぶって道理をわきまえない人
二、身体を粗末にして財産を重んじる人
三、衣類の節度の保てない人
四、陰陽共に病み、内臓の気が乱れきった人
五、痩(や)せ衰えて薬が服用できない人
六、巫(ふ)を信じて、医を信じない人
(出典=『漢方の歴史』小曾戸洋著、大修館書店)

 

2000年以上も残っている内容である。それぞれの時代に共感されて、受け継がれてきたのであろう。もちろん、現代にも当てはめられる。


一の「高ぶらない方が健康に良い」とは、身体を過信したり、精神的な安定が治療には大切だということだ。精神的な要因が病状に影響する。現代の精神神経免疫学である。


二の「身体を粗末にしない方が良い」。現代でも仕事を優先したり、人付き合いを大切にし、風邪でも仕事に行く人が大半だ。『黄帝内経(こうていだいけい)』にも、同じようなことが書いてある。「人の社会生活が高度になり、宮仕えなどができてから寿命が短くなってきた」とある。生活のために致し方ないのは分かるが、病気が治った後、病気を作った環境に戻るのは、再発を望んでいるようなものだ。


三は、「衣類を適切に使いなさい」ということ。人には獣のように毛がなく、季節によって生え変わることもない。だから寒い季節には、身体を衣服で覆うことで体温を保つ必要がある。また、年を取って熱の産生が弱くなれば、若いころよりも厚着をする必要がある。身体を覆うことに意識が向かない人が、現代でもいる。


四、五は身体が弱りすぎたり、薬の服用ができない場合は、病は治らないということ。


六の「巫を信じて医を信じない人」も、現代でもたくさんいる。人は弱ると、ついすがる対象を探してしまう。当時は病気といえば、「祈祷(きとう)」が治療の主な手段だっただろう。その中で経験則で出来上がっている漢方医学を信頼する方が、治る可能性が高かったということだろう。


私は、技術としての「医」だけでは不十分だ、と思う。太古の時代に「巫」を求める人の気持ちも、分かるような気がする。それは私が、難病に向き合う人を観て感じることでもある。

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