漢方診療日記

第36回 脱毛の原因 - 母の不安が子に伝染

「子どもの気持ちが分からない」と、親から相談されることがよくある。今回は、そんな症例だ。


14歳・中学生、男子―。生徒会に所属する優等生だ。クラブはサッカー部所属だ。主訴は脱毛だ。


初診は、「子どもが学校の行事で来られない」とのことで母親が来院した。半年前から脱毛が酷(ひど)く、五百円玉大の脱毛班が複数頭部にあるとのことだった。


スマートフォンで撮った写真を何枚か見せてもらった。確かに直径3センチ前後の脱毛班が、複数認められた。周囲の皮膚に問題なく、アトピー性皮膚炎等のアレルギー反応もなさそうだった。まれに、接触性のアレルギー反応として脱毛が起こることがあるが、今回は単純な脱毛のようだ。


このような場合、通常皮膚科では、原因が分からないことが多く、大抵の場合はステロイド軟膏(なんこう)を使い、経過観察に、となる。


今回の少年も、大学病院の皮膚科に行き、数カ月ステロイド剤で様子をみていたが、脱毛がひどくなったため、私の外来に来たのだ。


初診時は母親が代理で受診し、漢方薬の処方をお願いされたが断った。漢方医学は心を大切にする。少年本人の精神状態を聞かないで、写真だけを見て処方を決める訳にはいかなかった。母親は、しぶしぶ帰って行った。


次の週、本人が母親と2人で来院した。症状は母親が代弁し、本人はあまり喋(しゃべ)らない。父親の単身赴任で、ストレスが溜まって毛が抜ける、という母親の説明だ。


一旦(いったん)、母親に退出してもらい、その少年には、診察室での話は一切両親には言わない、と伝えた。生活で何か困ったこと、ストレスを感じていることがあるか聞いてみたが、はっきり言わない。


局所を診察すると、脱毛班の周囲が赤くなっているのを観て、私は、はっと気づいた。


「自分で毛を抜いてないか?」


と聞くと、静かに少年はうなずいた。


生徒会での役をやるようになってストレスが溜まり、母親が過干渉なこともあり、勉強中につい頭髪を自分で抜いてしまうのだという。


このような内容を母親が居ない中、やっと聞き出せた。頭皮の問題で毛が抜けるのではなく、自分で抜いていたのだ。


次の診察に同行してきた父親には、「単身赴任は脱毛の原因ではない」と伝えて、安心してもらった。


実は単身赴任を不安に思っていたのは母親で、その不安を子どもにぶつけていた、ということも分かってきた。今回は息子だけでなく、母親も漢方を飲んでもらい、3カ月で脱毛は完治した。


母親が不安になると、子どもに症状が出る。それを治すには、母親の治療しか手はないことを今回も確認した。

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