漢方診療日記

第35回 慢心 - 自分の意志が治した症例

32歳・女性―。皮膚湿疹(しっしん)で来院した。


大学生の時、初めて肩に湿疹を自覚した。その後、全身に広がり、近医の皮膚科から大学病院の皮膚科を紹介された。


治療には、ステロイド軟膏(なんこう)等が使われたが、一進一退を繰り返し、改善していない。現在では、顔面、首など人が正面から見た部分はほぼ、赤色の炎症を呈しており、触れると熱感がある。痂皮(かさぶた)が顔全体を覆う。本人曰(いわ)く、「夏でも首方を覆った洋服しか着ることができない」そうだ。


大学病院で数年治療された後、主治医が私に紹介状を持たせて来院した。どんなに我慢しても、夜寝てしまうと掻(か)いてしまうそうだ。そのため、不眠傾向にあり、仕事に支障を来たしているらしい。睡眠不足で仕事中に居眠りをしてしまう、という。
また、身体を温めると血流が良くなり、痒(かゆ)みが増すので風呂には入れず、何年もシャワーで入浴を済ませていたという。そのくせ、身体の芯(しん)は冷えており、冷え性の症状が出ていて辛いがどうしようもない、とのことだ。もちろん、西洋医学では冷えという概念はなく、治療はしていなかったそうだ。


今回、東洋医学での治療は初めてという。「当帰飲子(とうきいんし)」という処方をベースに加減方を行い、数カ月様子を診(み)ていた。この時点で私は、この一種類の漢方薬ではだめだと考えていた。そのためカルテに、次に使う予定の漢方と、さらにその次に使うものを書いておいた。順次使うつもりだった。


ところが、予想に反して彼女は一番目の漢方薬で、みるみる皮膚の状態が改善していった。 


私は漢方薬の種類を変える必要はないと思い、同薬を処方し続けた。その結果、外見は湿疹がなくなり、彼女のお母さんはとても喜んでくれた。


そろそろ漢方を〃卒業〃してもらおうと、断薬の話を持ち掛けた。その時、彼女に「この漢方が予想外に良く効いたね」と私は、少し自慢げに話をした。実際、普段は何種類かを組み合わせ、難治性の湿疹に対応している。でも彼女の答えは、予想外のものだった。彼女は、漢方は「半分しか効いていないと思う。食事で肉を食べなくなってから、劇的に皮膚が改善した」と言うのだ。


彼女は漢方薬を飲むようになってから、人任せではなく、自分で治そうという気が起こり、いろいろ食事や生活習慣を変えて試したのだという。その中で肉を食べるのを止めた時が、一番皮膚の痒みが少なかったので、続けたら全身の湿疹が良くなったらしい。


漢方薬は、自分で治そうとする意志を助けることを知っていたが、つい自分が処方した漢方薬の力で治したという慢心が、心を支配していたことを反省させられた症例だった。

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