漢方診療日記

第27回 移精変気の法 - 気をそらし症状が改善

72歳・女性―。横浜に一人暮らし。無職。


1年前から目の奥の痛みを訴え、眼科を受診し、眼底を含め全ての検査で異常が見つからず、内科へ紹介される。

 

内科では、断層撮影、エコーを含む全ての検査で異常が見つからなかった。そのため、精神科に転科となったが、精神科でも診断はつかなかった。痛みは今も続いている。あまりの痛みで「死にたい」と訴える。付き添いの娘も困って、複数の病院で診(み)てもらったが、どこにも異常がないとのことだった。


東洋医学的な診察をすると、ほぼ正常だ。それなのに、死ぬほどの痛みがあるという。「病院ではどこも悪くない、と言われるのでここに来た」と娘は言う。


「胃に何か腫瘍(しゅよう)があるかもしれませんから、胃カメラを予約しました」と私は診察終了時に伝えた。患者さんは、きょとんとした顔だ。自分は目の奥の痛みを治療して欲しくて来たのに、胃がんの疑いと言われれば、驚いて普通だ。再来は2週間後に取った。


2週間が経った。「前回の漢方が効いて、目の奥が痛くなくなった」という、ただ「胃カメラの予定を早くして欲しい」という。胃の調子が悪いという。

 

前回来院時には、胃は何ともないと言っていたはずだ。胃カメラは意識的に4カ月後と長めに予約を取った。今回は漢方の処方を止めて、予約だけを2週間後に取った。


目の奥の痛みに集中して、滞(とどこお)っていた気の流れが、胃という新たな滞り先が出てきたために流れ出した。人は2つのことに集中できない。


次に来た時、目の痛みはなくなっていた。「胃にも悪いところはない」と、「移精変気(いせいへんき)」の説明をした。


2千年前の中国の医学書『黄帝内経(こうていだいけい)』に「移精変気」という治療法がある。「気」がどこかに集中して離れなくなったら、別のところに気をそらし、症状が改善したのを患者さんに自覚してもらい、難治の症状の原因には気が関わっていることを自覚してもらうことによって、症状の軽減を図るのだ。


江戸時代の名医、和田東郭(わだ・とうかく、1742-1803年)は、どの医者からも見放されてしまった起き上がれない婦人に、「紅人からの奇石だ」と言って路傍(ろぼう)の石ころを持たせ、「それをさすると病、立ちどころに癒(い)える」と伝えた。婦人はその通りにすると、はたして起き上がれるようになったという。漢方屋の中では有名な話だ。


病人はよく、自分の状態を正確に認識していない。思い込みや、一局に集中した心配事で自覚症状を狂わせている。気をそらすことで、症状が改善されるのだ。

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