漢方診療日記

第23回 海賊になりたかった - 「何をしたいか」を知る

49歳・男性―。


北陸で開業医をしている。妻と小学生の娘が一人。幸せな暮らしをしている。


受診動機は「ストレスを減らしたい」「血圧を下げたい」とのこと。体重は90キロ以上、身長165センチだから、かなり太っている。腹診をすると「胸脇苦満」―つまりおなかでストレスを受けている。


「つい頼まれた仕事を引き受けてしまう」という。自治体の役などを引き受けて、人と人との間で苦悩するらしい。学生時代は貿易に興味を持っており、海外旅行に行った時に見つけ、日本にまだ代理店のない香水なんかを、自分が代理店になると英文の手紙を出してみたり、医者になってすぐの20代にも、東南アジアに行って貿易の真似事をしていたが、今は開業の仕事を真面目にやっている。時たま地方から上京するのが、唯一の息抜きのようだ。


「なんとなくモヤモヤした気がする。うつなのかな?」と言うのが彼の口癖だ。


漢方を処方して、頭の整理をさせてやると、だんだん分かって来た。本人の話によると、自分は社会のため、家族のために医者をしていたらしい。でも、本来は海外で仕事をしたかった自分に気付いたそうだ。


自分が本来やりたいことに理屈はいらない。私も「どうして、白装束でほら貝を大峰山で吹きたいのか」と問われると、答えられない。


彼も、社会の常識として学生時代から勉強し、医学部に合格し、その後研修し、市民病院で診察し、開業し、地域医療に貢献するといった、他人から見た理想的なライフスタイルを求めて努力し、具現化してきた。


人には本来したいことがある。私の友人の医者の息子でも、どうしても医者になりたくないのもいれば、私のようにどうしても医者になりたくて、2浪して医学部に行く者もいる。


社会的な常識や、人の勧め、収入などに惑わされることなく、本来興味があることをやるのが幸せだろう。


彼は、悩んだ漢方を飲んでしまったため、自分の深いところからの夢を思い出してしまった。妻も小学生の子どもも大切だ。


彼は、密かに目標を立てた。後十数年して娘が自立したら、病院をたたんで東南アジアに移住し、別の仕事を始めるというものだ。


本来の自分のしたいこと、居るべきところが分かった彼の血圧は急に安定した。ストレスも減っていった。

「自分が本当に何をしたいか」を知ることも、漢方の力の一つだと感じた。

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