漢方診療日記

第21回 〃メンテナンス〃してほしい - 「思い込んで」苦痛に…

40代の前半の患者は東京在住の会社員の男性―。会社勤めとは言っても、特殊な分野で、出勤は週に平均1、2日。自宅での仕事が多く、人と外で会っていることもある。金融関係だと言う。個人で株式投資もしている。奥様と高級マンション暮らしだ。


彼は「仕事をする気力が出ないから漢方で“メンテナンス”してほしい」との主訴で来院した。


漢方外来は不思議な所で、癌(がん)の末期の患者や膠原(こうげん)病などの難病から、芸能人の美容まで主訴として来る。共通点は、現代病院では対象にされない状態であるということ。その中でも、病気になる前の、メンテナンスや予防などの目的で来る患者さんたちもいる。


本来漢方は、病気になる前、つまり、未病状態を対象としているため、現代医学では病名が付かないが、体調が悪かったり、また、気力を増したいというのは、理にかなった受診動機だ。


東洋医学は、強い力で状態を変える西洋医学のような治療はできない。病気になりかけた状態や、少し悪い状態に加療するのが良い。病気になりきってしまってからでは、難しいことが多い。


逆に西洋医学は、診断基準を満たして病気になって病名が付かないと、治療が始まらない。だから病院に行くと、まずは検査だ。


彼に「どうして気力が出ないか」と聞くと、株で損をして、その挽回がなかなかできないと言う。私は粘り強く、株取引を止めてもらうようにお願いした。診察中も薬を待つ間もずっと、スマホの株価ボードを眺めている。中毒だ。


そんな彼が、奥様の説得と私の脅しで、やっと株式市場から撤退した。その後、ひと月して彼の精神状態は大きく改善した。生活するエネルギーも出てきた。


彼は「初め自分は株取引の仕事に向いていて、得意な分野だと思っていた」「だから、何回失敗しても、挽回できるチャンスがあると思って続けていた」とのこと。


そして本業に力を入れるようになり、本業での仕事が増え、収入も株の損失を超えていった。「もうあんな世界には戻りたくない」と彼は言う。


彼のように、株やFXの取り引きがやめられず、というか、損をしても「自分はその分野が得意だ」と勝手に思い込み、苦しみながら生活している人がたくさんいる。


漢方は、これを止めさせる気力を補ったと思う。今は漢方薬もやめて、力強く仕事をしている。

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