漢方診療日記

第20回 夫が病気で妻が元気になる話 - 入れ替わる「気」の力

患者は60歳の男性―。妻と一緒に初診の外来に来た。夫は経営者。全国に店舗を展開している。運転手付きの黒い高級車で来院するのをたまたま私は見た。子供は2人。独立して、外の銀行に勉強を兼ねて働いている。


主訴は、1年前から発症した下肢(かし)のしびれとめまいだ。両方の症状とも東京の大学病院をはしごし、耳鼻科から神経内科、精神科まではしごしたが、「原因不明」だと言われた。


現代医学の場合、病気の原因が分からないことイコール治療法が分からないということ。だから治療は始まっていない。そこで、西洋医学で分からなくても、東洋医学では分かるかも知れない、と私の漢方外来の門を叩(たた)いたそうだ。


現在は下肢のしびれがあり、杖をついている。ちなみに妻は52歳、神経症で精神科の外来に10年以上かかっており、投薬治療が行われている。今回は、夫だけが私の患者になるとのこと。でも一応、妻の神経症の病歴を聞いた。


夫が原因不明の病気で気力がなくなり始めた半年前から、妻の精神症状が良くなりだしたのだそうだ。妻は長期間にわたり精神科の治療を受けていたが、それまであまり改善していなかったそうだ。外出も、ままならなかったそうだ。ところが、夫が原因不明の病気になってから、急に妻の精神病の状態が改善したというのだ。今まで外出できなかったのが、現に私の外来に夫の付き添いで来ている。


妻は夫が病気になってから、自分の薬の量が減ったのだという。もちろん理由は分からないとのこと。夫婦の危機で、妻の精神状態が「これではいかん」とシャキッとしたのではない。


私は以前にも、このような事例を見たことがある。夫が経営者で、いつも妻を精神的に追い詰めている場合がある。もちろん、夫も意識している訳ではない。無意識だろう。妻に聞いてみると、やはり普段、夫が元気な時は、自分の発言で、急に夫の気分が悪くなり、どなられやしないかと、ハラハラしながら、家で過ごしていた。


夫が家に帰ると緊張していたが、最近、夫が弱ってくると、家に帰っても緊張しなくなったとのこと。また、夫から怒られることも無くなったという。夫の調子が悪くなってやっと、自分が夫に気を使い過ぎて、精神的に負担になっていると気付いたと言う。


現在、夫は私の漢方で治療中であるが、良くなる予定だ。でも、もし良くなり、妻の方の薬が増えたらどうしようか、とも考える。


夫婦の見えない「気」の力関係はどの家庭にでもあるが、力が偏らず、時に触れ、強いと弱いが入れ替わるような力関係が、東洋的には良いと感じる。陰極まれば陽となる。弱い気を痛めすぎてはいけない

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