漢方診療日記

第17回 定年後、不眠の悩みの裏側 - 心が決める幸と不幸

65歳・男性―。


会社を定年後、アパートで妻と2人暮らし。日常、特にすることがなく、一日家にいるという。不眠の主訴で来院。神経質そうな痩(や)せた男性だ。


聞くと、夜連続して2時間以上寝たことが3年以上なく、いつもうつらうつらしており、浅い夢の中にいるらしい。


不眠と言っても、客観的には寝ていることも多いが、この場合、奥様が見ていてほとんど寝ていないことを確認している。そのため、昼でも頭が働かないらしい。


仕事を持つ不眠のサラリーマンは多い。多くの場合、仕事を休んだら寝られるようになる。仕事上の心配、イライラが眠りを浅くしていることがほとんどだ。


また、引きこもりで昼夜逆転している人は、昼寝ているので夜眠れない。時差ボケのようになっている。


今回の患者さんの場合は、仕事はしていない。複雑な人間関係でイライラすることもないらしい。


私は始め、「酸棗仁湯(さんそうにんとう)」を処方した。時差ボケなどに使う処方だ。単純な不眠にも使う。しかしこのケースでは、あまり功を奏しなかった。


しばらく外来通院の後、眼帯をして手には包帯を巻いて、彼は通院して来た。どうしたのかと聞くと、飲み屋で知らない客と喧嘩(けんか)になったらしい。「こんな神経質な人が喧嘩か」、と意外な印象だった。よく話を聞くと、飲み屋で隣に座った客と意見が合わなくなり、一方的に殴られたというのだ。


今までの印象では、私には分からなかったが、かなり頑固で意見を曲げない性格らしい。それが原因で、偶然居合わせた客と話していて意見が合わず、殴られたというのだ。適当に話を聞いて、相槌(あいづち)を打つくらいのことが出来ないらしい。「日ごろからそういうことがあるのか」と聞くと、「一つのことに、こだわり、頭から離れない」ことがあるらしい。テレビを見ても、一人でイライラするらしい。


ここで私は、不眠の原因はイライラだと気付いた。本人は自覚がなくても、世に義憤を感じ、イライラする人もたくさんいる。会社などで労働をしてなくても、ストレスを貯めていたのだ。


私は「抑肝散(よくかんさん)」を出した。疳(かん)の虫を治す薬だ。抑肝散に、少し酸棗仁と芍薬(しゃくやく)を加味し、さらに緊張を取って眠れるようにした。


結果は著効を示し、何年かぶりに朝までぐっすり眠れたという。


人の心の状態は、環境を問診したくらいでは分からないと反省した。どんな環境でも、幸せと感じる人もいれば、そうでない人もいる。


「人の幸不幸は自分の心が決める」―禅の老師の言葉を思い出した。

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