万葉車窓
三輪―巻向(JR桜井線) - 春本番の大和三山を一望
『 春の苑(その) 紅(くれない)にほふ 桃の花下照(で)る道に 出(い)で立つ少女(おとめ) 』
県下でも桜が見ごろを迎え、ようやく春本番となった。桜井市の三輪山ろくでは桃の花が咲き始めた。濃いピンク色の花がじゅうたんのように山肌を覆い、唐桃(からもも)が薄緑色の清楚(せいそ)な花を咲かせている。
このあたりは、大和をこよなく愛した写真家、故入江泰吉さんが撮影によく訪れた場所。大和三山が見渡せるこの場所は、写真愛好家や万葉ファンが訪れる場所となっている。この時期は、桃の花の下に少女、ではなくカメラマンが多く見られた。
撮影当日は、黄砂が観測された日で、夕方になると西日に金剛葛城の山々がぼんやり浮かんだ。画面中ほどには大和三山の畝傍山と耳成山が浮島のようにシルエットとなった。
『 香具山は 畝傍ををしと耳梨と 相争ひき 神代より かくにあるらし いにしへも しかにあれこそ うつせみも つまを 争ふらしき 』
日が暮れるに従って、家並みが隠れて、万葉の時代をほうふつとさせる風景に。大和三山にまつわる恋伝説にロマンを感じた。
●参考図書=米田勝著「万葉を行く」(奈良新聞社刊)、和田嘉寿男著「大和の万葉歌」(奈良新聞出版センター刊)
写真・文 本紙・藤井博信 (日本写真家協会会員)