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万葉車窓

木津―上狛(JR奈良線) - 夕暮れ映す川面のドラマ

 

 万葉集では「泉川」の名で登場する木津川は、当時から近年まで長く水上交通の手段として利用されていた。木津川に架かるJR奈良線鉄橋周辺は、国道24号や163号などの道路、木津駅はJR関西線、片町線(学研都市線)、奈良線が三方向に分岐するなど、現在も交通の要所には違いない。

 長逝せる弟を哀傷(かなし)ぶる歌一首

 『 天離(あまざか)る 鄙(ひな)冶めにと 大君の 任(まけ)のまにまに 出でて来(こ)し われを送ると あをによし 奈良山過ぎて 泉川 清き川原に 馬とどめ 別れし時に ま幸(さき)くて 我(あれ)帰り来む 』

 撮影当日は、夕方に現地に到着した。夕方といっても夏の日は高い。夕暮れから宵にかけて三度のドラマが起こる。一度目は日没間近、急速に辺りが暗くなるころ。二度目は通り過ぎる電車の車内と外の景色の明るさが同じになったとき。ほんのりと赤く色づいた外の景色と明かりに照らされた電車の車内の明るさが等しくなると、普段は見えない車内の様子が見え不思議な気分になる。三度目は夜になる直前。太陽が沈んだ方角の空の明るさがなくなるころ。

 この写真は三度目のドラマが起こるころ。あたり一面闇につつまれ、空の残照もわずか。その残照を木津川(泉川)が映す。万葉の人たちもここで残照を見たのだろうか。

●参考図書=和田嘉寿男著「大和の万葉歌」(奈良新聞出版センター刊)

 

写真・文 本紙・藤井博信 (日本写真家協会会員)

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