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万葉車窓

尼ヶ辻-西ノ京(近畿橿原線) - 池の水面似映る冬の風景

 

 『 勝間田(かつまた)の 池はわれ知る 蓮(はちす)なし
                    然(しか)言ふ君が 鬚(ひげ)なきごとし 』

 歌に出てくる勝間田の池は、唐招提寺や薬師寺の近くにあったといわれる。早くに池は廃れて今は痕跡をとどめない。新田部皇子(にひたべのみこ)が身近な女性から献じられた歌で、皇子が美しい池をご覧になりつくづく心を引かれ、女性に「水影濤々(とうとう)に蓮花灼々(しゃくしゃく)たり」とその由を告げ、女性が答えた戯歌(ざれうた)という。

 今もこの周辺には池が点在している。近鉄尼ケ辻駅の南側には線路沿いに新池と馬田池があり、西側には垂仁(すいにん)天皇陵の周濠(しゅうごう)がある。この古墳は全長227メートルの大型の前方後円墳で、濠(ほり)の東側には小さな小島のような田道間守(たじまもり)の墓がある。

 田道間守は垂仁天皇の命を受け、常世国から不老不死の果物、橘(たちばな)を持ってくるが、苦難の末帰ると天皇は亡くなっていた。悲しみのあまり田道間守は死んでしまい、天皇陵の傍らに葬られたという。

 撮影日は、この冬一番の寒気が到来した前日。夕暮れの空を雲が北から南へ早い速度で流れ空の表情を刻一刻と変化させていった。

●参考図書=米田勝著「万葉を行く」(奈良新聞社刊)、和田嘉寿男著「大和の万葉歌」(奈良新聞出版センター刊)

 

写真・文 本紙・藤井博信 (日本写真家協会会員)

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