万葉車窓
木津-加茂(JR関西本線) - 流れる風景にきらめく桜
『 あしひきの 山桜花(やまさくらばな) 日並べて かく咲きたらば いと恋ひめやも 』
山部宿禰赤人(やまべのすくねあかひと)が詠んだこの歌は「もし山の桜の花が何日も咲いているなら、こんなに恋しいとは思わないでしょう」という意味。万葉集では梅の歌が多く歌われているが桜の歌もたくさん歌われている。これもその一つ。
写真は京都府木津町鹿背山鹿口で撮影した。関西線は木津駅を出ると右に二度カーブするが、加茂に向かって人家は少なくなってくる。木津駅から直線で東に1キロ少々の距離だが、農村風景が広がる自然に恵まれた場所だった。
風が強く少し肌寒かったが、目の前の線路脇に一本のヤマザクラが現れた。夕日の斜光線に白い花が光る。よく見ると近くの山肌にも数本のヤマザクラ。4月下旬ながらヤマザクラが見ることができてうれしくなった。楽しめる花期の短いサクラ。「何日間も咲いていない花だけに恋しい」という気持ちが分かったような気がする。貴重な偶然を喜びたい。
『 去年(こぞ)の春 逢へりし君に 恋ひにてし 桜の花は 迎へけらしも 』
●参考図書=米田勝著「万葉を行く」(奈良新聞社刊)、和田嘉寿男著「大和の万葉歌」(奈良新聞出版センター刊)
写真・文 本紙・藤井博信 (日本写真家協会会員)