万葉車窓
奈良-木津(JR関西本線) - 万葉人の恋を見つめた川
『 千鳥鳴く 佐保の川瀬の さざれ波 止む時もなし わが恋ふらくは 』
「千鳥の鳴く佐保川のさざ波が止(や)むことがないように、私のあなたへの思いも止むことがありません」という意味の歌を詠んだ坂上郎女。彼女への変わらぬ愛を訴えた藤原麻呂の贈歌に対する応歌で、この恋愛の舞台となったのが佐保川だった。
世界遺産の春日山原始林などを源とする佐保川は、大和川支流で二番目に大きい。春日山を経て奈良市街を西に進み、同市役所付近で南に向きを変え大和郡山市を経て初瀬川と合流。大和川となる。
万葉集に数多く歌われ、古くから人々に親しまれてきた。奈良市法蓮町から大和郡山市との境界の同市七条町あたりまで延々と続く美しいサクラ並木は住民の川に対する愛着の表れだろう。
なかでも、法蓮町の佐保川に架かるJR鉄橋から少し上流にあるサクラは「川路桜」と呼ばれる。樹齢150年を超える古木は幕末の奈良奉行が植えたもの。古木を中心にしたこの一帯のサクラ並木を期間中ライトアップが行われ、ピンクの花がおりなす幻想的な風景をつくっている。
このサクラを後世に残そうと努力しているのが「佐保川を愛する会」(新谷春美会長)の人たち。古来多くの人に親しまれた川は現在も愛され続けている。(写真は今月9日に撮影)
写真と文 藤井博信