万葉車窓

榛原―室生口大野(近鉄大阪線) - 阿騎野の山々染める茜色

 生駒山地と矢田丘陵に挟まれた平群町。竜田川に沿って家々が並ぶが住宅開発が進み山麓(さんろく)にも家が増えている。竜田川は元山上口駅から上流にあたる東山駅付近にかけて渓谷を描く。この辺りは武内宿禰(たけのうちのすくね)の子、都久(つく)宿禰を祖とする平群氏の本拠地だった場所だ。

 

 

 『 東(ひむがし)の 野にかぎろひの 立つ見えて かへり見すれば 月かたぶきぬ 』

 飛鳥時代に安騎野(あきの=阿騎野)と呼ばれた地は、榛原から大宇陀町の中心部にかけての、宇陀川流域の一帯の山野と推測され、宮廷の狩り場として名を残す。後に文武天皇となる軽皇子(かるのみこ)の狩りの供として訪れた万葉歌人・柿本人麻呂の詠んだ歌。当地を代表する歌の一つとして知られ、この歌にちなみ大宇陀町では同町迫間のかぎろひの丘万葉公園で毎年、旧暦11月17日の早朝、「かぎろひを観る会」が開かれている。

 この写真は榛原町戒場(かいば)から撮影した。ここは戒場山のふもとの集落で、近くには平安時代に地方の戒律道場として栄えた戒長寺が山寺の静かなたたずまいをみせる。歌は早朝の阿騎野が舞台だが、この写真は夕暮れ時。阿騎野をはさみ山々は茜(あかね)色に染まる。万葉の世界と現代とを結びつけるように手前を近鉄大阪線の車両が斜光線を浴び輝いた。

 『 大和の 宇陀の真赤土(まはに)の さ丹(に)つかば そこもか人の わを言(こと)なさむ 』

●参考図書=米田勝著「万葉を行く」(奈良新聞社刊)、和田嘉寿男著「大和の万葉歌」(奈良新聞出版センター刊)

 

写真・文 本紙・藤井博信 (日本写真家協会会員)

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