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万葉車窓

千本口-吉野山(吉野大峯ケーブル自動車) - 神々宿る森を「空中散歩」

 

 『 よき人の よしとよく見て よしと言ひし 吉野よく見よ よき人よく見 』

 この歌は天武天皇の吉野での御製。「よし」と「見る」を反復させた歌としてよく知られている。万葉の時代には天皇の吉野行幸(いでまし)が幾度となく行われていた。大和平野とは違う重なり合う多くの山々や深い樹叢(じゅそう)、渓流に神聖な場所と感じたのだろう。

 吉野大峯ケーブル自動車の普通索道(ロープウエー)は昭和3年開業で日本最古のものといわれる。近鉄吉野線吉野駅前に千本口駅があり、ここから約350メートル先の吉野山駅まで交走式の索道が走る。1秒間に約3メートルの速さで約2分ほどの空中散歩。高さは一番高いところで地表から約36メートルと各地にあるロープウエーよりも低い所を走る。

 搬器ともゴンドラともいわれる客室は階段状になっている。客室は昭和40年代に新調されたもので、乗客の重さのバランスなどで車体が前後に揺れるのが特徴。元はドイツ製だったロープウエーの設備を手入れや更新しながら大事に使っている。このため、レトロな乗り物としても人気があり遠くからも乗りに来る人もいるとか。また、同線はロープウエーとしては珍しい定期券があり小学生などが通学などに利用している。

 ロープウエーは、杉林やモミジ、サクラなど木々の間を通り抜ける。それは神々が宿るような吉野の自然の中を山越えして通った吉野行幸のようにも見える。

 『 み吉野の 耳我(みみが)の嶺に 時なくそ 雪は降りける 間なくそ 雨は降りける その雪の 時なきがごと その雨の 間なきがごとく 隈(くま)もおちず 思ひつつそ来し その山道を 』(天武天皇)

●参考図書=米田勝著「万葉を行く」(奈良新聞社刊)、和田嘉寿男著「大和の万葉歌」(奈良新聞出版センター刊)

 

写真・文 本紙・藤井博信 (日本写真家協会会員)

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