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万葉車窓

長谷寺-榛原(近鉄大阪線) - 夕闇が青く包む棚田の里

 

 『 降る雪は あはにな降りそ 吉隠(よなばり)の 猪養(ゐかい)の岡の 寒からまくに 』

 万葉歌碑が桜井市吉隠にある。桜井市と榛原町の境界に近いこの土地は万葉研究家の米田勝さんによると、「万葉集」の吉名隠の表記から吉(よ)き隠(こも)り場や、「なばり」は墾を意味し肥沃(ひよく)の地をいうなどの地名起源説があるという。

 冒頭の歌は、天武天皇の皇女但馬の死後、その異母兄弟・穂積皇子(ほずみのみこ)が雪の降る寒さの中で、猪養の岡の墓を思いやって詠んだ歌。この但馬皇女は異母兄の高市皇子(たけちのみこ)の妃だったが同じ異母兄穂積に恋し、いくつかの歌に託している。

 万葉の時代から続くであろう吉隠の集落は今も静かに時が流れる。背後に山が迫る集落に人家が点在。山肌に沿って棚田が続く風景に日本の原風景を見る思いがする。棚田の1つ1つはそれぞれ、形が違いパッチワークやステンドグラスのように複雑に組み合わされているのが美しい。

 この日は梅雨を思わせるような雨。やがて青く夕闇があたりを包み始めるころ撮影を始めた。時折吹く突風は大きな木を揺らし、棚田には白い大きな波紋が走った。向かいの山に近鉄電車の明かりが彗(すい)星のように流れた。

 

写真・文 本紙・藤井博信 (日本写真家協会会員)

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