万葉車窓

三輪-巻向(JR桜井線) - いにしえの世界へ誘う道

 

 『 三輪山を しかも隠すか 雲だにも 情(こころ)あらなも 隠さふべしや 』

 この歌は近江遷都の時、額田王が天智天皇の心を天皇に代わり詠んだものといわれ、三輪山の神霊を鎮める祭礼の場における呪(じゅう)歌といわれている。美しい姿を見せる三輪山には多くの歌が作られた。万葉人が好み、奈良・大和の象徴としてとらえられたこの山には人の心をひきつけるものがあるようだ。

 二度にわたる取材だった。一度目はどんより曇った天気で時折、斜光が周囲を照らした。二度目はあいにくの雨。低い雲が三輪山をかすめた。この付近では国道169号(通称天理街道)の陸橋や箸墓古墳東側、織田小学校近くのため池など撮影場所がいくつかある。今回は桜井市箸中の巻向川側にある石灯ろう前で撮影した。

 JR桜井線は山辺の道にも近く、観光スポットの多い路線だ。三輪駅から巻向駅間にも大神(おおみわ)神社をはじめ狭井(さい)神社、檜原(ひばら)神社のほか、興福寺の高僧・玄賓(げんぴん)庵も。

 二両編成で走るクリーム色に赤のストライプが入ったワンマンカーは、あわただしい現実の世界からいにしえの世界に運んでくれる、まるで夢の鉄道。国道を走っていれば気付かないこと、感じないこともこの車窓からは見ることができるように思える。

 『 新しき 年の始めの 初春の 今日降る雪の いや重(し)け吉事(よごと) 』

 数日前、三輪周辺はうっすらと雪をかぶった。この歌は大伴家持が今の鳥取県で読んだ歌だが四季の歌としてはぴったりではないだろうか。

 

写真・文 本紙・藤井博信 (日本写真家協会会員)

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