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万葉車窓

月ケ瀬口-大河原(JR関西本線) - いにしえの旅の風景一瞬

 

 万葉集には旅を詠んだものが多い。都から地方へ出かける役人らの心情を込めて歌に託されている。死別を描く挽歌(ばんか)も万葉集には多いが、妻子との別れや、恋人との別れを詠んだ旅の歌にも、「早く会いたい」との願いや「恋人を思って寝られない」などの心境が読める。

 『 別れなば うら悲しけむ 吾(あ)が衣(ころも) 下にを着ませ 直(ただ)に逢ふまでに 』

 新羅の国に向かう使者たちを送る歌の一部にある歌。この時代、着物には着ていた人の魂が宿っていると考えられていたため、私の衣類を直接お会いするまで着てください、と歌ったもの。今のように快適な旅とは程遠い、生死を賭けた旅だったことがうかがえる。

 今回は旅をテーマに撮影地点を探した。関西本線の加茂と亀山の間は単線非電化区間で、奈良から比較的近く旅情を味わえる区間だ。日没後、午後6時5分に伊賀上野を発車した気動車は単行(一両編成)のワンマンカー。最前部の貫通扉から流れる車窓を見ると青く暮れていく夜空の下にはヘッドライトに照らされた線路や沿線の草などが浮かび上がった。

 月ケ瀬口を発車するころには景色もすっかり暗くなった。大河原駅に近づくと並走する国道に車の明かりも。この辺りは木津川を挟んで両側に山が迫る。歩いて旅をしていた万葉人のことを思いながらシャッターを切っていると、やがて加茂に。33分間の鉄道小旅行はあっという間に終わりとなった。

 

写真・文 本紙・藤井博信 (日本写真家協会会員)

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