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高松塚古墳はいま ■下■

【2005.06.27 奈良新聞】


高松塚古墳
石室解体が現実味を帯び始めている高松塚古墳(明日香村平田)


 「検討会の協議は、既に『解体ありき』で進められているのではないか」

 5月11日、東京都内で開かれた第三回国宝高松塚古墳壁画恒久保存対策検討会で会合の後、委員の一人はこう述べ、不満をあらわにした。

 検討会では、(1)いまの施設や機器を更新し現状で保存(2)覆屋を設置するなどして墳丘ごと地盤から隔絶して保存(3)墳丘を壊して石室のみ周囲の地盤から隔絶して保存(4)石室を解体して保存(5)壁画をはぎ取って保存―の5つの案について作業部会が比較検討した結果が報告された。

 ただ、その内容は誰が見ても、4番目の石室解体案が他より有効だとする報告だった。検討会の雰囲気は一気に「解体やむなし」の方へ大きく傾いた。さらに議論が、劣化要因となったカビ問題に集中し、石室解体案を後押しする形になった。

 微生物専門の3人の研究者が、5案それぞれについての所見を報告。3人とも第4案が妥当との見解を示した。カビ対策に限定すれば、石室を周囲の土など自然から完全に切り離すのが最も有効なのは確かで、全員が第4案を支持するのも当然だった。

 しかし、ある委員は「微生物の問題と恒久保存対策をどうするかという問題は次元が別。カビの問題だけで結論を出すべきではない。これまで現地保存してきた意味などを踏まえた議論がもっと必要だ」と振り返る。

 議論がカビ問題に集中する一方、奈良文化財研究所埋蔵文化財センター保存修復科学研究室長の肥塚隆保委員は「抜本的な対策を講じないと取り返しのつかないことになる。これが最後のチャンス」と壁画が描かれている漆喰(しっくい)がはく落の危機にあることを強調し、石室解体案を支持した。

 これに対し、県立橿原考古学研究所副所長の松田真一委員は「最後のチャンスというが、墳丘への浸水防止や石室内の温度を下げるなど緊急対策を打ち、効果を見た上で最終的に判断するべきだ」と主張。解体案に「待った」をかけたが、検討会全体としては、解体案を支持する意見が目立った。

 確かに壁画には無数の亀裂が走り、漆喰が浮き上がるなど劣化が進んでいる。とは言え、はく落の危険性の度合いや劣化がどの程度進んでいるのかなど、状況を把握できるデータや資料は文化庁から提示されていない。そもそも、文化庁は劣化の進行を認識しながら情報公開してこず、報道で事実が明らかにされた途端、石室解体案を含めた保存方法を提示してきた。

 こうした経緯が、検討会の協議が「解体ありき」で進められているのではないかとする一部の疑問にもつながっている。同庁が「解体ありきではない」と言うのなら、より多くの人が納得できるだけの資料を、まず提示するべきだ。

 また、同じ壁画古墳として知られるキトラ古墳(明日香村阿部山)で進められている壁画のはぎ取り保存は、高松塚に応用できないのか。壁画の余白部分から試験的にはぎ取ってみるなど、手を尽くした上で判断しても良いのではないかという指摘も出てくる。

 さらに、議論には「史跡としての高松塚」という視点が欠けている。石室を解体すれば墳丘が削られるなど古墳は破壊される。「壁画あっての高松塚。それもやむを得ない」との声もあるが、古墳の考古学的、学術的な価値は大きく損なわれる。この問題をどう受け止めるのか。

 国民的関心事でもあり、ことは重大だ。未来に禍根を残さないためにも十分な議論を求めたい。


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