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第三部 飛鳥を伝える

極彩色の古代を後世に 飛鳥を照らす光

 長らくビニールシートに覆われていた明日香村阿部山のキトラ古墳で、発掘と壁画の保存処理に向けた準備が進められている。作業用の覆い屋が完成した後、秋までには石槨(せっかく)内での作業が始まる見込みだ。ほぼ同じころ、高松塚古墳では壁画の間近に迫ったカビの処理が行われる。新たに封印を解かれる古墳と発掘から30年の歳月を経てカビに侵された古墳。2つの古墳は、古代の遺産を継承することがいかに難しいかを物語っている。明日香村を照らす2つの「光源」が曇ることのないよう、祈るばかりだ。


高松塚古墳
高松塚古墳は村内の遺跡に色を与える「光源」の役目を果たしてきた。
昨年10月、石槨壁面にクロカビの発生が確認され、今年夏に応急処置が行われる


【建設進む覆い屋】

 先月17日、キトラ古墳を保護する土のうの撤去作業が始まった。建設される覆い屋は鉄筋2階建て。石槨内の環境を変えずに人を送り込むための施設で、盗掘坑の前に設けられる密閉スペース(小前室)は、内部と同じ温・湿度に調整できる。滅菌服を着けた調査員は、除菌を完全にしてからこのスペースに入る。

 デジタルカメラを使ったこれまでの調査で確認されたのは、玄武、青竜、朱雀、白虎の四神と獣頭人身の十二支像、天井には東アジア最古の天文図。どの壁面も傷みが激しく、しっくいと石材の間に水が入って浮いたようになった部分もあった。

 奈良文化財研究所の沢田正昭・埋蔵文化財センター長は「壁面のしっくいは空気が動くだけでも影響を受ける可能性がある。作業には細心の注意が必要だろう」と指摘する。

 施設は6月ごろに完成し、1、2カ月の試運転を経て発掘開始。文化庁が県や村と協力して行うが、壁画の保存処理が終わるのは何年も先になるとみられている。同記念物課は「墓道の発掘も残っており、長い道のりの一歩を踏み出したばかり」と話した。高松塚古墳壁画の修復は、発掘から4年後に始まり、ほぼ10年にわたって続けられた。


【壁画に迫るクロカビ】

 文化庁は先日、衝撃的なカラー写真を報道機関に公表した。30年にわたって彩りを保ってきた飛鳥美人に、雲のようなクロビが迫っていた。国宝の壁画が眠る高松塚古墳の石槨は、1年以上前から複数種のカビに侵されていたことが明らかになった。

 昭和51年に始まった壁画の修復は現状維持を原則に行われ、しっくいに合成樹脂を注入してはく落を防止。墳丘上に観察用の保存施設を設けて壁画の点検を続けてきた。最初はアオカビやシロカビが発生したものの、最近10年ほどは安定した状態が続いていたという。

 今回の被害はアルコールで殺しても色素が残るクロカビ。東壁女子群像の下と青竜の後方、白虎の下の計3カ所で確認された。最も大きい塊は縦3cm、横4cmもある。文化庁は平成9年3月に19年ぶりで壁画の写真を公表したが、この時の"飛鳥美人"は発掘当時と同じようにほほ笑んでいた。

 何らかの原因で石槨内部の環境が崩れたことは間違いなく、文化庁は専門家による「国宝高松塚古墳壁画緊急保存対策検討会」(座長=渡辺明義・東京文化財研究所理事長)を発足させた。クロカビを取り除く方法があるかどうか、再発を防ぐにはどうすればよいか、5月下旬までに結論を出す。虫の侵入も増えており、環境変化に関係すると考えられている。

 今月21日に東京都港区のホテルで開かれた初会合では、奈文研の沢田正昭・埋蔵文化財センター長が「墳丘が保存に適した状態でないのかもしれない。円墳としての景観を含め、保存方法を一から見直す時期がきている。発掘前の状態に戻すことが必ずしもベストなのか。内部の湿度を下げることも検討課題に挙げてよく、100年先を見据えた対応が必要」と指摘した。

 文化庁は7月上旬に応急のカビ対策を実施、16年度には壁画の劣化を防ぐ再修復も行いたい考え。予想を越えたカビの被害は、発掘を間近に控えたキトラ古墳でも予想される。保存方法の検討は発掘後だが、高松塚古墳で採用された「現状保存」は、カビの発生によって新たな課題を投げかけられたといえるだろう。


【高松塚光源】

 明日香村を今の姿で残してほしい-。その思いが国の施策となったのは、昭和41年の古都保存法適用、そして同45年12月の閣議決定だった。保存運動が大きな盛り上がりを見せていた同47年、高松塚古墳の極彩色壁画は長い眠りから覚めて姿を現した。以来、壁面に描かれた四神は、開発の波をはね返す守護神として「飛鳥」を見守り続けてきた。

 今なお多くの人々が明日香村に古代の息吹きを感じるのは、絶え間なく続く発掘調査の成果にほかならない。高松塚古墳はそれらの遺跡を照らす「光源」の役目を果たしてきた。発掘で姿を現す「飛鳥」は土や石に象徴される色の乏しい世界。21世紀に生きる私たちは、高松塚古墳の壁画を通じてそこに鮮やか色を重ねることができる。いつかは必ず消えるその光が一日でも長く輝くよう、心から祈りたい。


 国宝高松塚古墳壁画緊急保存対策検討会

 保存科学や美術史、考古学など12人の専門家によって組織された。下部機関として壁画の修復やカビの専門家を集めたワーキンググループ(座長=青木繁夫・東京文化財研究所修復技術部長、8人)がある。文化庁は検討会の提言を得て応急のカビ対策を行う。


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