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万葉の景色

宇智の大野

古代人癒やす狩猟地

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獲物が豊富な狩猟地の面影は薄れつつも、
日本の原風景がぽつぽつ残る「宇智の大野」。
後方が金剛山、秋は駆け足で過ぎる【五條市西河内町】

 金剛山(標高1.125メートル)のすそ野に広がる宇智の大野。舒明天皇がここで狩りを行った時、飛鳥・岡本宮に残った中皇命が使者を出し、狩り最中の天皇に歌を託した。

 『 たまきはる 宇智の大野に 馬並めて 朝踏ますらむ その草深野 』(巻1~4)

 「朝早くお出かけになったから、今ごろは狩りに励んでいらっしゃることでしょう。気をつけて」。妻が夫を思う気持ちを素直に表現、狩り場に居並ぶ馬が朝露を踏みしめ原野を疾走する姿が思い浮かぶ。古代の人々にとって、同地までの距離はいかがなものか。さほど遠出とも思えないが、暗い内から人馬列を作り幾重もの峠を越えたどり着いたに違いない。無事を願う妻、それだけに獲物が豊富な良質な狩猟地であったことも容易に想像できる。

 さて、宇智の大野はどこ、素朴な疑問が脳裏を横切る。諸説あるが、金剛山南東麓(ろく)から荒坂峠(五條市今井町)辺りの広い山野を指したと思われる。峠の傍らに歌碑がたたずむ。近くにはゴルフ場があり、住宅開発が進む。京奈和自動車道の建設工事も急ピッチで真新しい橋脚が目を引く。取材当日、秋には珍しい黄砂が観測された。朝露を期待していただけに、黄色く照らし出された山並みを空しく眺めた。中国大陸で土壌が乾燥し、強い西風が吹いたことが原因と奈良地方気象台。

 近くを走るJR和歌山線。北宇智駅は金剛登山の玄関口、がらんとした駅舎内に登山届を入れるボックスがある。日中、乗降客はまばら。無人駅だが、1000メートル水平に進むと20メートル高くなるという勾配(こうばい)がきつい区間の途中にあり、鉄道ファンにとっては有名。近畿地方唯一のスイッチバックが駅構内にある。

 金剛の山並みが広がる駅に立つ。五條方面からの電車が駅の脇を通り過ぎ数百メートル進む。いったん停車後、バックで駅に進入。乗客が乗り降りした後、高田方面を目指す。一方、高田方面からの電車は駅に停車後、バックする。一見、非効率的だが先人の知恵を感じた。都会人の勝手だが、のどかなままであってほしい。近畿の駅百選にも名を連ねる。



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JR北宇智駅。
五條方面への電車が駅を出発、いったん数百メートル後進。
停車後、再び前進し速度を上げる


写真・文 本紙・藤井博信 (日本写真家協会会員)


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