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万葉の景色

春日野の秋

萩舞い散り蟋蟀歌う

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▲「秋萩の 散りのまがひに…」
と刻まれた歌碑が建つ手向山八幡宮境内。
作者の湯原王は情景を詠んだ歌に独自の感性が光り、
天平前期を代表する歌人の一人【奈良市雑司町】

 気寒く、露草重し―。暦のうえでは寒露が過ぎ、晩秋から初冬の趣。ハギの花びらが秋風に舞い、コオロギなど虫が鳴く春日野界隈(かいわい)は初秋の気配が漂って心地よい。奈良市春日野町の鹿苑(ろくえん)角きり場ではきょう16日まで古都奈良の秋を彩る「鹿の角きり」が行われている。

 『 秋萩の 散りのまがひに 呼び立てて 鳴くなる鹿の 声の遥けさ 』 湯原王(巻8~1550)

 湯原王は志貴皇子の子で天智天皇の孫に当たり、官位にこそ恵まれなかったが19首が万葉集に残る。特に情景を詠んだ歌に独自の感性が光り、天平前期を代表する歌人の一人に名を連ねている。ハギは万葉集の花としては最もポピュラー。最多登場の142首を数える。細い茎に小花をびっしりつける姿は決して艶(つや)やかさはないが、目を凝らせば豪華で可憐(かれん)。日本人好みか、ハギにつきものがシカ(8月28日付「奈良の鹿」)だ。

 湯原王の歌はぴったり当てはまる。ハギの花が降るように散るさまは美しく圧巻に違いないだろう。さらに静寂の中、妻を呼ぶシカの悲しげな声が相反する両者によって演出される臨場感は想像の域を超える。「夕月夜 心もしのに 白露の おくこの庭に 蟋蟀(こおろぎ)鳴くも(巻8~1552)」も鋭い目と耳を感じさせる名歌として知られている。秋に鳴く虫の総称として使われたコオロギが季節を先取りし鳴き出した。急いで冬支度を…。

 前後するが、奈良市に万葉歌碑を建てる会が奈良市雑司町の手向山八幡宮境内に「秋萩の 散りのまがひに…」と刻まれた歌碑を平成14年に建立した。同7年に1号基を建てて以来、目標にしていた30基目という。若草山麓(さんろく)から東大寺二月堂への道すがら、多くの人々が優雅な万葉人の心に触れ、すがすがしい気分に、との願いだ。

 ひっそりたたずむ手向山八幡宮は筑紫国(大分県)の宇佐八幡宮ゆかりの古社で、この神の加護を得、困難を極めていた大仏造営が完成したといわれている。江戸時代、大仏復興に尽力した公慶上人が再建した楼門も。

 
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▲秋の夜長、リズミカルな鳴き声が軽やかなコオロギ


写真と文 牡丹 賢治


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