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万葉の景色

生駒山

行き去る人々の歩み見続け

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▲奈良盆地と大阪平野を隔て黒い壁のように立ちはだかる生駒山。
凛とした存在感を感じるもののマンションの明かりと
家路に急ぐ車の光跡が時代を象徴する【生駒市南山手台から写す】

 奈良盆地と大阪平野を隔て立つ生駒山系の山々。主峰・生駒山は標高642m、特に大阪側からは屏風のように山容がそびえ、凛(りん)とした存在感が漂う。古くから近隣のシンボルとして、また奈良側の中腹にある宝山寺(生駒市門前町)は「生駒の聖天さん」と呼ばれ商売繁盛など多くの信仰を集めてきた。山頂付近には公園や遊園地がある。トンネルも掘られ電車や自動車であっという間に行き来できるが、万葉の時代は馬か徒歩での山越えを余儀なくされた難所。古くから峠越えの古道が幾つかあったが、いずれもハイキング気分で歩けるような道ではなかった。

 万葉人は生駒山を題材にした歌を多く残している。生駒山麓公園(同市俵口町)内には一つずつ形の違う六つの万葉歌碑がバランスよく配置されている。

 山越えの道は北から清滝越え、日下(くさか)越え、暗峠越え、十三越え、信貴越え、竜田越えなどが知られている。中でも平城京と難波をつなぐ暗峠越えは最短ルートだが、急峻(きゅうしゅん)な道程。にもかかわらず一刻も早くという人々の往来でにぎわったという。詳しい行程は定かではないが、奈良市中心部、現在の三条通を西へ西へと進み、西ノ京から矢田丘陵を越える奈良街道(国道308号)が生駒山の南の裾(すそ)を通る暗峠へと通じる。

 住宅開発が進む国道308号沿いの高台、生駒市南山手台から開ける眺望は圧巻。とりわけ太陽が生駒山の稜線(りょうせん)に沈み、刻々と色を失う夕暮れから日没にかけ、黒い壁のように立ちはだかりそのスケールの大きさが際立つ。万葉の時代と景色を共有できる瞬間だ。ただ、山頂に林立するテレビ各社の送信施設や裾野に広がる住宅の明かり、第二阪奈道路を通過する車のライトが川の流れのよう見え平成の世に戻る。近鉄生駒駅前から大正7年に開業した日本最初のケーブルカーが宝山寺を経て十数分で山上へ。宝山寺までは高低差146m、同寺から山上までは322mある。

『 妹許と 馬に鞍置きて 生駒山 うち越え来れば 紅葉散りつつ 』作者不詳(10~2201)

 険しい生駒越えも恋しいあなたに会いに行くのだから…。暑さも和らぎ朝晩過ごしやすくなってきた。撮影で訪れた南山手台では虫の音があちこちから届き、小さな秋を感じた。風が心地よい。ちょっぴりセンチメンタルになり恋しい人を思う。


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▲生駒市内中心部から宝山寺を経て
山頂を結ぶケーブルカーを乗り継げば山上まで十数分。
複線のケーブルは唯一、ここだけとか。
途中、上り下りがすれ違う部分は複々線で大都市の路線のよう。
山肌に立ち並ぶマンションや一戸建ての住宅が線路間際まで迫る
【生駒市元町】


写真と文 牡丹 賢治


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