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万葉の景色

あきづ羽

羽透かし見る世界、今は蝉時雨


ちょっと一休み。
水面をかすめ飛行機のように横に広げた二対の羽で
空をすいすい自由に飛ぶトンボは軽快でどことなく涼しげだ【奈良市内】

 早いもので立秋も過ぎ、暦の上では秋。とはいえ、連日30度を超える暑い日が続き夏まっ盛り。ジリジリと照りつける真夏の太陽を歓迎するかのように早朝から容赦なく降り注ぐ蝉時雨(せみしぐれ)にうんざりという読者も多いのでは。初秋の訪れを告げるのは赤トンボ。ほっと一息、トンボの姿を見つけ思わずシャッターを切った。これは初春から夏にかけて現れる最もポピュラーなシオカラトンボとは知らず…。

 「万葉集」は実に多くの四季を詠んでいる。草花とともに季節を代表する虫や鳥、魚、獣などの生き物が数多くお目見えする。そんな中、セミを題材にした歌が十首、トンボは一種のみだが存在した。

 『 石走る 滝もとどろに 鳴く蝉の 声をし聞けば 都し思ほゆ 』 大石蓑麻呂(巻15~3617)

 セミの鳴き声を轟々(ごうごう)と流れ落ちる滝の音に見立て、都を思い起こす。蓑麻呂は遣新羅船の一員として航海中だった。古代の人にとって新羅は未知の国。何かにつけ故郷と結びつけ、日々、遠ざかる大和の国に思いをはせたのだろう。さて、万葉に登場するセミはなぜかヒグラシが圧倒的多数を占める。蓑麻呂同様、新羅に派遣された秦間麻呂は生駒山のヒグラシの鳴き声を耳にし、妻への思いを歌にした。

 『 夕されば 蜩(ひぐらし)来鳴く 生駒山 越えてぞ我が来る 妹が目を欲り 』(巻15~3589)

 生駒山を詠んだ万葉歌碑が並ぶ山麓公園(生駒市俵口町)内などに碑が立つ。もちろん、取材当日は厳しい暑さ。蝉時雨の洗礼を覚悟の上で木陰へ逃げ込んだ。


◇    ◇    ◇

 『 あきづ羽の 袖振る妹を 玉櫛笥 奥に思ふを 見たまへ我が君 』 湯原王(巻3~376)

 「あきづ」はトンボの総称。トンボの羽のように透き通った衣の袖を振るって踊る娘のことを心の底から慕っている。皆さん、よくご覧ください。あきづは「秋に多くいづる」が略された言葉とも。トンボの多くは晩春から秋まで見ることができるが、活発に飛び回るのは秋ではなく真夏だといわれている。トンボも涼を求め飛来したのだろうか、正倉院(奈良市雑司町)前の大仏池畔に群集していた。


太陽の日差しが容赦なく照るつける中、
蝉時雨も負けじと降り注ぐ【生駒市内】


写真と文 牡丹 賢治


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