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万葉の景色

春日野の春

心躍る花の季節に遊ぶ

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▲春たけなわの飛火野。
サクラほどの艶やかさはないが、かれんな花をたわわにつける
アシビが春盛りを告げ、芝草がもえる(奈良市春日野町)

 気象台が奈良市内の「サクラ開花」を発表したのが今月の2日。花が開き、1週間ほどで満開になるといわれている。社寺を含めソメイヨシノやヤマザクラなど3500本以上が美を競う奈良公園(奈良市)のサクラも、ちょうど今が見ごろ。万葉の時代、奈良公園を中心に春日奥山から高円山、また東大寺などを含む広い地域を春日野と呼んでいた。平城宮から近いこの地は大宮人の格好の遊び場であったに違いない。

 『 春日野に 煙立つ見ゆ 少女(をとめ)らし  春野のうはぎ 採みて煮らしも 』 作者不詳(巻十-一八七九)

 春の1日、春日野で遊ぶ少女らが摘んだヨメナ(うはぎ)をその場でゆで、煙るさまを詠んでいる。少女はどんな味付けでヨメナを食べたのだろう。ヨメナは肌が美しくなるともいわれる。「春のうはぎ摘み」は恒例行事だった。平城宮跡から出土した木簡をひもとくと「酢」や「醤」と書かれた醤油(しょうゆ)、「未醤」と記された味噌(みそ)、さらに塩などがあったようだが、おひたしにしたのだろうか、それとも酢味噌で…。健康食ブームの昨今、万葉人も相当のグルメと見える。

 さて万葉集に登場する「春日野」を詠んだ歌は22首。その大半が恋や遊宴を題材にしている。春日は「春の日の霞(かす)むところ」という意味で、飛ぶ鳥の明日香から「飛鳥」、同様「春日のかすが」が春日に。春日野から霞む春へと想像が膨らむ。今がその好季。野草を摘み、花を愛(め)で、恋が芽生えた春日野は随分様変わりしたと思われるが、ここは春日大社の神域の一部である。飛火野の一角に面影を見た。

 ちょろちょろとした流れが、やがて万葉の川・率川(いさがわ)となり、鹿が遊ぶ。艶(つや)やかさはないが芝草が芽吹き、白いかれんな花が鈴なりに咲く控えめなアシビを目の当たりにすると古(いにしえ)の万葉人がしのばれる。道を隔て浅茅ケ原のソメイヨシノも盛り。浮見堂をランドマークに鷺(さぎ)池ではボート遊びを楽しむ若者の姿も。今の昔も春日野は心躍る春が似合う。


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▲水ぬるみボート遊びを楽しむ若者。
掲載のころはソメイヨシノは満開か


写真と文 牡丹 賢治

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