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万葉の景色

春呼ぶ野焼き

勇壮に丹念に昼の炎

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▲枯れ草がメラメラ音を上げ、燃え盛る「若草山の焼き直し」
炎の向こうに東大寺大仏殿が浮かびあがる(3月8日撮影)

 彼岸が過ぎ、桜の便りが待ち遠しい季節を迎えた。冬の間閉鎖されていた若草山(奈良市)は、芝やススキの芽生えを促す「焼き直し作業」を終え、19日に山開きした。夜空を焦がす観光の目玉「山焼き」とは違い、昼間、丹念に行われた。規模は違っても、幼いころ田んぼや畑の広がるのどかな山村で見た野焼きを思い出した。枯れ草がメラメラと音を上げ、燃え盛る風景は勇壮だ。万葉人は、野焼きを好きな人への恋心に重ね歌にした。

 『 冬ごもり 春の大野を 焼く人は 焼きたらねかも わが心焼く 』 (作者不詳(巻7~1336)

 次から次へと燃え広がる炎を目の当たりにして「私の心までも焼いてしまいそう」。燃え立つ情熱的な思いを、春待つダイナミックな風景と重ね合わせた。作者は女性だろうか、不謹慎とおしかりを受けるかもしれないが男冥利(みょうり)に尽きる。そんな思いがした。

 環境への配慮や近代化が進む昨今、野焼きは過去の風物か。そんな中、ことし1月の若草山焼きには全国から13万人もの観光客らが集まった。山に潜むイノシシを追い払うためとか、害虫の駆除、あるいは春の芽生えを良くするための原始的な野焼きを伝えたものなど諸説あるが、興福寺と東大寺の領地(境界)争いのなか、宝暦10(1760)年に奈良奉行が関係者立会いのもとで山を焼いたのが始まりとされる。

 明治以降は同11年から始まり、33年から夜間に開催。東大寺や興福寺、春日大社の僧侶や神官が見守るなか、毎年、花火やラッパを合図に地元消防団員らが点火。約33ヘクタール、周囲3800メートルの草地に火が燃え広がる。ただ、燃え残りもあるので焼き直しが例年行われる。山開きに合わせ目新しいイベント「鹿せんべいとばし大会」なども。

 「万葉集」はいつの時代にあっても、永遠に新しいといわれる。心の内を文字にした歌は時代を超え、人の心を打つのだろう。

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▲古都・奈良の夜空を炎で彩る冬の風物詩「若草山焼き」
写真は昨年1月11日、奈良市杉ケ町のビル6階から撮影


写真と文 牡丹 賢治

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