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万葉の景色

布留川

いにしえの人が恋心託す

イチョウ並木

▲イチョウ並木が色づき「黄葉」が夕日に映える中、授業を終え自宅に
戻るであろう小学生が楽しげに話す。布留川は護岸が整備され道路に
沿い暗きょになっている(後方左の建物が天理市庁舎)

 竜王山を源流に天理市内を横断し、初瀬(大和)川と合流する布留川。石上神宮の前を通る道路に架かる布留大橋を境に、下流側はコンクリートで護岸が整備され“万葉の布留川”ははるか昔の思い出となった。が、上流側に目を向けると、渓谷が深く「袖布留川の絶えむと思へや」と詠んだ万葉人の歌心が垣間見られる光景に出合える。

 『 吾妹子や 吾を忘れすな 石上 袖布留川の 絶えむと思へや 』 作者不詳(巻12-3013)

 川の流れが絶えないように、私のことを忘れないで…。川に沿い布留大橋から天理教の関連施設などが建ち並ぶ旧国道を少し歩けば、万葉にも詠まれた布留の高橋が。その昔、山が迫り渓谷の茂みに瀬の音だけが聞こえる現場も今は立派な橋が架かり、そのころの面影はない。東海自然道の一角に位置し、川辺に下りる階段があるが、使う人はほとんどないようだ。その証拠に石段は苔(こけ)むし、途中からは崩れ応急のはしごが架かっている。

 流れは思ったより早く清らかで、小さな段差があり滝のようにも見える。三脚を据え、スローシャッターを切った。流れは白く糸を引くように写り、味わい深い。都会の喧騒(けんそう)を忘れ、気持ちが安らぐ。

 『 石上 布留の高橋 高高に 妹が待つらむ 夜ぞふけにける 』 作者不詳(巻12-2997)

 布留の地名を詠んだ歌は十首余りあるが、甘美な恋歌が多い。さて趣に欠ける布留大橋から下も、並行する街路のイチョウ並木が色づき艶(つや)やか。天理教本部や天理市庁舎付近は例年この時期、黄葉が夕日に輝きひときわ美しい。万葉の時代、モミジは紅葉より黄葉が主役の座を占めていたとか。ちなみにモミジを題材にした歌は130首を超えるが、その大半が「黄葉」の文字が使われている。授業を終えた小学生が家路に急いでいた。

清流

▲白い糸を引くように岩の間を縫う清流は
「万葉の布留川」をほうふつする(天理市豊井町)


写真と文 牡丹 賢治

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