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万葉の景色

阿太野

秋風誘う葛の小花

葛

▲吉野川沿いに自生する葛。秋の七草の1つで、
赤紫色の花の小さな花が葉に見え隠れする。
生命力が強く、辺り一面を覆い尽くす勢いでつるが伸びる
(五条市南阿田町)

 朝晩、幾分か秋めいてきた。が、日中は残暑きびしくまだ冷たいものが恋しい。さて、夏の和菓子の代表格、葛(くず)きりや葛まんじゅうの原料は誰もが知っている葛。奈良の特産だが、とくに吉野の山野に自生する葛の根から採取した「吉野葛」は良質で珍重されている。前置きが長くなったが、葛そのものや葛の花を知る人は少ない、と聞く。

 秋の七草である。花は紅紫色。大型のつる性植物で、つるの長さは10メートル以上にも伸び非常に生命力が強い。一見すれば「見たことあるわ…」。万葉集には葛を題材にした歌が18首ある。しかし、花そのものを詠んだ歌は少ない。

 『 真葛原 なびく秋風 吹くごとに  阿太の大野の 萩の花散る 』
作者不詳(巻10-2096)

 葛が生い茂る原に、秋風が吹くたびに阿太の大原の萩(はぎ)の花が散っていくよ。阿太は五条市の東部、大淀町などに隣接する吉野川沿い一帯で、現在、東阿田、西阿田、南阿田の町名がある。萩も、いわずと知れた秋の七草。142首もの歌があり、この歌からも万葉の時代、最も身近な花だったことがうかがえる。梅の119首を押さえ、数の上からもトップ。なぜだろう。思うに細い茎に赤や白い小花をびっしりとつける姿が可憐(かれん)で日本人好みだった…。勝手な想像はさておき、古くから観賞用に貴族階級の邸宅にも植えられていたようだ。

 一方、葛は山野に咲き、花の美しさでは引けを取らないが、観賞用としては萩に及ばなかった。ただ、当時は葛の繊維を使い布を織るなど生活に密接していた。その証しもある。たくましい生命力を誇る夏の葛を詠んだ歌も多い。葛は今なお料理の材料などとして人々の暮らしに深く結びついている。

 阿太の大野、吉野川は宮滝などと並ぶ景勝地。太公望やカヌーの練習場としてにぎわっている。また、阿太高原はナシがたわわに実り、吉野川沿いの国道には直売所があちこちに。

萩

▲花を題材にした万葉歌ではピカ一の存在感がある萩


写真と文 牡丹 賢治

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