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万葉の景色

香具山

神が天降る小高い丘

池畔

▲夏の日が照りつける池畔。香久山をはじめ
大和三山を題材にした万葉歌は数多い(橿原市南浦町)

 「天の香具山」と呼ばれていたことからも分かるように、神が天降る山と信じられていた香久山。その証だろうか、周辺には天岩戸神社や天香具山神社があるほか、中腹に神武天皇の赤埴白埴の聖地があり、山頂には天常立神が祀(まつ)られているという。天皇が国見をする場でもあったようだ。

 万葉集には、香久山を詠んだ歌がたくさんあり、数多くの歌碑が立つ。

 『 春過ぎて 夏来るらし 白妙の  衣ほしたり 天の香具山 』 持統天皇(巻1-28)

 よく知られた歌の一つで、天香具山神社内などに碑がある。山とは名ばかり、丘のような香久山は藤原宮の目の前にあり、生活の中にある風景に違いなかったと思われる。が、ちょっとした変化から季節を感じるのは、持統天皇ならではの感性だろう。緑の中に干された白い衣を見つけ、「もう、夏がきたのねぇ…」。立秋も過ぎ、暦の上では秋。が、今年は冷夏が続き、やっとここ一週間ばかり夏の気配。残暑のきびしい午後、当地を訪れた。大和三山に囲まれた藤原宮跡に立ち、「春過ぎて夏来るらし」を肌で感じた。

 香具山の北のふもとに古池がある。車一台がやっと通れるほどの道をしばらく走ると、碑がひっそりとたたずむ。

  『 草枕 旅の宿に 誰が夫か  国忘れたる 家待たまくに 』  柿本人麻呂(巻3-426)

 香具山のほとりで一人の行き倒れの死人を哀れみ、悲しんで詠んだ歌だが、その人麻呂自身、後に石見(現在の島根県)で倒れ、自分の死を知らず帰りを待っているであろう妻を思う歌を残している。万葉の昔、旅は今ほど容易ではなく、多くの悲劇が生まれたことだろう。夏草に覆われた碑を目の当たりにすると、よけい悲しい。

 整備された万葉の森がすぐ近くにあり、橿原市の昆虫館なども。セミの鳴き声が夏盛りを告げるかのごとく響き渡る池畔を散策、緑が日に透けキラキラ輝いていた。

香久山

▲山とは名ばかり、小高い丘のような香久山。
残暑厳しい中、かかしがお目見えし秋の気配もただよう


写真と文 牡丹 賢治

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