このページでは、Javascriptを使用しています
">
奈良新聞WEB トップへ戻る
 
←次へ 前へ→
万葉の景色

八田の野

万葉人の心映す紫陽花

アジサイとお地蔵様

▲アジサイに見え隠れするお地蔵さま。
矢田寺は今、花が見ごろを迎え約60種8000株が美を競う

 生駒の山並みに併走するように連なる矢田丘陵。古刹(さつ)が点在し、緑豊かなハイキングコース(近畿自然歩道)として知られている。

 中でも、天武天皇の創建と伝えられる矢田寺は今、アジサイが見ごろ。この辺りが万葉に詠まれた「八田の野」と思われる。

『 八田の野の 浅茅色づく 有乳山 峯の沫雪 寒くふるらし 』 作者不詳(巻10-2331)

 「黄葉を詠める」という詞書があり、八田の野の色づく茅(かや)に、遠くに住む愛(いと)しい人を思い詠んだようだ。周辺は住宅開発が進むが、まだまだ田んぼが残り、田植えを終えた田は鏡のように輝く。矢田寺は丘陵の中腹にあり、長い坂と石段を上ると色あでやかなアジサイが迎えてくれる。ここは地蔵信仰の中心地でもあり、境内や周辺にはお地蔵さまがあちらこちらに。

 さて、ツバキや花ショウブなどとともにわが国原産のアジサイだが、万葉集にはわずか2首が登場するだけ。

 『 あじさいの 八重咲くごとく  弥つ代にを いませわが背子 見つつ偲はむ 』
   橘諸兄(巻20-4448)

 アジサイの咲く役人宅で繰り広げられた宴に参加、丹比国人から贈られた歌に対し答えたもの。恋の歌のようだが、実は…。当時、橘諸兄は左大臣。政治の世界は大揺れだったとか。花の色が白から青紫、紅紫と変わり、俗に七変化とも言われるアジサイだが、政治の世界も一寸先は闇。今も昔も変わらないが、その昔は即、生死にかかわっただけにことは深刻。「いつまでもお元気で」。メッセージは伝わったのだろうか。

 ことのほか、紫色を愛した万葉人であったにもかかわらず、歌数が少ない所以(ゆえん)かも。もちろん、品種改良を重ね、今の花とは一概に比べられないだろうが不思議だ。どんよりとした梅雨空に咲く大輪だけが知っているかも。花の名所は大勢が詰め掛け、愛でる。

矢田丘陵

▲緑が美しい矢田丘陵。矢田寺の北方にひっそりたたずむ東明寺、
近くには子どもの森や大和民俗公園なども


写真と文 牡丹 賢治

ページ上部へ移動

グラフ:目次ページに戻る

奈良新聞WEBトップに戻る


 

会社概要採用情報新聞購読出版情報個人情報保護特定商取引法に基づく表示サイトマップ