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万葉の景色

卯名手(雲梯)の杜

花に誘われ募る心

春の曽我川に満開の桜

▲春の曽我川。
卯名手の杜付近はサクラが見ごろを迎えた(橿原市雲梯町)

『 真菅よし 宗我の河原に 鳴く千鳥 無しわが背子 わが恋ふらくは 』
作者不詳(巻12-3087)


 好きな人のことを思ってはみても、なかなか会えない。イライラする女心と千鳥の鳴き声とを巧みに絡ませている。万葉の時代、「…河原に鳴く千鳥」はごく普通の光景で、とりたてて珍しいことではなかったようだ。橿原市など県平野部を流れる曽我川も例外でない。大和川に流れ込む川はどこも事情は同じようだが、土手に植えられたサクラが咲くこの時期、面目を躍如。ぼんぼりも灯(とも)り、艶(つや)やかに。

 奈良にサクラの便りが届き、はや1週間。見ごろを迎えた木々も多い。曽我川、卯名手(うなて)の杜(もり)付近も満開。川面に淡いピンクの花が映り込み、花見を楽しむ人が…。ここで詠んだと思われる万葉歌がある。


『 真鳥住む 卯名手の神社の菅の根を 衣にかきつけ 着せむ子もがも 』
作者不詳(巻7-1344)


 菅の実を着物に摺(す)りつけ、着せてくれるような恋人が欲しいなぁ。季節までは分からないが、春は人恋しくなる季節。この時期に詠んだかも。卯名手神社は現在ない。が、曽我川沿いに大きな鳥居を発見、「河俣神社」と記されている。ここが卯名手神社らしい。祭神は大国主命の子、事代主神で出雲から移ってきた神という。さて、万葉集には卯名手の地を詠んだ歌がもう1つある。


『 思はぬを 思ふといはば 真鳥住む 卯名手の神社の 神し知らさむ 』
作者不詳(巻12-3100)


 こちらにも真鳥が登場。当時、真鳥とは偉大な鳥という意味で鷲(わし)を指す。明日香の真神の原(2月9日付=万葉の景色参照)の真神が狼(おおかみ)を指すのと同じように聖なる神に見立てたようだ。もちろん、今の神社には鷲が住めるような深い杜はない。参道の奥に名残をとどめる小さな杜があり、子どもらの遊び場に。春爛漫(らんまん)、古代の心が伝わるような小鳥のさえずりが聞こえてきた。


▲曽我川沿いにある河俣神社


写真と文 牡丹 賢治

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