真土峠
国境に惜別と期待と
▲奈良と和歌山の県境付近を流れる落合川に残る飛び越え石
真土山は、高さ100メートルあまりの丘のような山だが、万葉人にとっては、大和への惜別とまだ見ぬ黒潮おどる紀ノ国への期待が交差する特別な地。葛城・金剛の山々が連なる南端、吉野川に手が届きそうな峠で、今も奈良と和歌山の県境。国道24号が五条から橋本へと抜けJRの線路も平走する大動脈。
『 あさもよし 紀人ともしも 真土山 行き来と見らむ 紀人ともしも 』
調淡海(巻1-55)
真土山からの眺めを褒めたたえ、行きも帰りも
景色をめでる紀ノ国の人々をうらやむ。藤原宮から、つらつら椿(つばき)の巨勢山、重坂峠から宇智野などを経て当地に。
おそらく数日かかったであろう道程で、さぞ新鮮に映ったことだろう。行幸に同行した人々の秀歌が8首残っている。
今も昔も見知らぬ土地を訪れるとワクワクする。
が、交通手段が飛躍的に進歩した現代、万葉人の思いとは比較にならない。車ならほんの数分で峠を越え、和歌山側へ。
そんな中、金剛山を源に流れ下る落合川は昔ながらの風情が色濃く残っている。
国道から案内板に沿い、川面に。水量はさほど多くはないが、訪れた日は激しい雨。
古道の飛び越え石の渡しは健在だったものの、流れが狭くなったこの辺りはごう音をたてた濁流が吉野川へ。
畳1枚分ほどの平たい岩が両岸から張り出し流れをひとまたぎ。もちろん、ルートは定かではないが、万葉人もこの石橋を渡ったのだろうか。
『 白たへに にほふ真土の 山川に 我が馬なづむ 家恋ふらしも 』
藤原卿(巻7-1192)
石の渡しで、馬が足をなずませ進まない様子を詠んだものだが、旅先で馬がつまずくのは、夫を案じる妻の思いと旅愁がつのる。きずなの強さが感じられる歌だ。
▲雪の金剛山。真土山はその南端にあたる
▲冬枯れの田畑が広がる奈良県側から真土峠を望む
写真と文 牡丹 賢治
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