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万葉の景色

吉城(宜寸)川

水面に映す恋心

落ち葉

▲晩秋から初冬にかけ、赤や茶に色づいたカエデやクヌギの
落ち葉があたり一面を覆い、吉城川の流れをもせき止めそう
(奈良市春日野町)

 春日山から流れ出した吉城川は春日大社の摂社の一つ、水谷(みずや)神社の前を通り、県新公会堂から東大寺南大門の南を横切り、氷室神社の北を過ぎ奈良女子大学の北側で佐保川に合流する。

 さほど距離はないが、古くは宜寸(よしき)川と書き万葉集にも登場する。


 『 吾妹子に 衣春日の 宜寸川 よしもあらぬか 妹が目を見む 』
作者不詳(巻12-3011)


 「衣を貸したいが」を衣春日、「よい方法が」を宜寸川に掛けるなど、身近なものを詠み込み二つ以上の意味を持たせた懸詞(かけことば)を巧みに使い、恋の歌に。

 あれこれ理由をつけ、好きな人に近づきたいと思う心理は今も昔も変わらないようだが、作者は恋焦がれる人に会う手段として着物を貸すことを思いついた。しかし、手渡す手段がない。

 「さぁ、困った」と悩み、詠んだ歌かと思うと、思わず応援したくなる。

 今、吉城川はチョロチョロと流れが細く、存在感は今一つ。

 もちろん、万葉人が詠みつづった風情はない。ただ、奈良公園春日野園地近くなど一部の川沿いはカエデが多く、秋には紅葉が見事だ。やや上流、水谷神社辺りは晩秋から初冬にかけ、落ち葉が川面を覆う。近くの茶屋の藁葺(わらぶ)き屋根にも葉が舞い、店先の落ち葉集めに追われる。

 東大寺への参道わき、川の洲に「吉城川」の石標があり、鹿がたわむれる「ぬた場」がある。泥に寝転び、ぬたくる。皮膚に寄生する虫を除去するため、などの説があるが、じゃれあっているようにも映る。

 が、観光客の大半は大仏殿や二月堂を目指し、人目につくことはない。"万葉の宜寸川"に今なお、関心を寄せるのは鹿だけかも。

カエデ

▲流れに沿い、真っ赤に色着いたカエデが目を引く
(11月中旬写す)


写真と文 牡丹 賢治

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