小さな動物がうずくまっているだけでも立ち止まってしまう、馬はそんな性質の生き物なのだと作家の塩野七生さんが「ローマ人の物語」に書いていた。

　合戦シーンではさえぎる者を蹴散らすイメージだが、馬にすれぱ足蹴にしたくないのだという。その性質を知り尽くしていたのがカエサルで、紀元前48年の「ファルサルスの戦い」で、騎兵戦力に勝るポンペイウス軍を撃破した。

　こちらは子どもが前を歩いていようと、自らの意志では止まってくれない。自動車は足の踏み込みひとつで鉄の凶器と化す。

　警察庁によると、75歳以上の運転免許保有者は昨年末で約478万人。前年より約30万人増えた。来年3月の道路交通法改正では、認知機能検査が強化される。高齢運転者の事故対策は、今後も模索が続くだろう。

　難しいのは車が社会と高齢者をつなぐ手段である点で、足腰が弱るなどして外出に車が欠かせないケースも多い。

　運転免許の自主返納やタクシー利用の促進など、いずれも有効な対応策だが、地域や家庭で外出を支え合う、そんな環境があれば悲しい事故はきっと減る。(増)