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金曜時評

公設ホテルの是非 - 編集委員 増山 和樹

 橿原市が近鉄大和八木駅南側の市有地に計画しているホテルと分庁舎の複合施設が、同市の市長選(10月18日告示、同25日投票)で大きな争点に浮上してきた。長い間、空き地となっている市有地の活用プランは過去に2回頓挫しており、事業の行方は市の信用にも関わる。推進と反対の双方が展望を明確に示して市民の審判をあおぐ必要がある。

 市有地は約3800平方メートルで、地上10階、地下1階の建物に分庁舎とホテル、交流広場などが入る。最上階には展望施設や大浴場も設けられる予定だ。

 そこで問題となっている点を整理してみたい。最も重要なのはホテルが「公設民営」であることだろう。3月に市と事業契約を締結したPFI八木駅南市有地活用株式会社(大林組グループ)が建物を建設し、完成後は市に所有権を移して管理と運営を担当する。民間資金やノウハウを活用する手法で、建設費用は20年かけて市が分割で支払う。過去の活用プランは市有地に定期借地権を設定し、民間業者に貸し出すやり方だった。今回の複合施設は名実ともに市の建物で、市内のホテル・旅館業者から「民業圧迫」の声が上がるのは当然だろう。100億円近い予算規模も是非が問われる。

 だが、駅前整備から取り残された市有地の活用が避けて通れない課題なのも事実。市長選では、複合施設を広域観光の拠点としたい現職の森下豊氏に、元県議の神田加津代氏が計画撤回を掲げて挑む形となる。市は市議会の議決を得て事業契約を締結しており、白紙撤回は事業者への補償など相応のリスクを伴う。中南和の拠点都市として外国人観光客の増加や5年後に控える東京五輪への対応も問われており、撤回の公約には対案の提示も必要だろう。

 ホテルとの一体型で懸念されるのは稼働率の伸び悩みである。事業者が市に支払う賃料は、稼働率7割を基準に設定されている。宿泊客が少なければ3年ごとの交渉で引き下げも予想される。ホテルの規模を縮小するような事態になれば、分庁舎のイメージにも影響し、事業は失敗と言わざるを得ない。新たな観光客の呼び込みは、既存宿泊施設との共存だけでなく、自身の存続のためにも必要だ。

 今回の計画は市場調査や過去の頓挫を踏まえ、「応募してもらえるプラン」として作成された。税金でホテルを建てることに市民が意義を見い出すか、投票の行方はそこに帰結するといえそうだ。

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