特集奈良の鹿ニュース

金曜時評

夢の場所の再構築 - 編集委員 松岡 智

 人口減少は特定の場所だけの問題ではなくなっている。大都市近郊でも若年人口が減り、活力が徐々に失われている地域の存在が顕在化してきた。今から30~50年ほど前、高度経済成長期からバブル期にかけて開拓、整備された「ニュータウン」と呼ばれる一帯だ。

 かつて夢の一翼を担った住宅地は、経年での建物老朽化のみならず、親子世帯の分離と高齢夫婦世帯の増加、単身高齢者の拡大へと進行。最終的に近隣の公的、商業施設の衰退、空き家が増えるという道をたどりやすい。全国のニュータウンの現状が、それを証明している。

 対応措置として国は昨年、一戸建て住宅地を含む住宅団地の再生のあり方を検討する学識経験者らによる組織を立ち上げた。平行して、住宅団地型既存住宅流通促進モデル事業も導入し、空き家対策も講じている。

 県内でも、人口減少と高齢人口、空き家の増加で地域全体の活気が減退したり、近隣商業施設が衰退、撤退しているニュータウン、その予備軍の存在が耳に入ってくる。かつて大都市のベッドタウンとして栄えた地域とて例外ではない。

 そんな中で、同モデル事業を利用した企業、NPO法人が生駒、橿原両市、河合町のニュータウンで再生、活性化に取り組み始めたことは注目される。再利用と若年人口の流入などをにらんだ空き家の利活用、ストック事業はもとより、自前のノウハウを生かし、「スマートシティー」といった最先端の居住空間への地域全体の新生も期待できるからだ。

 今後、同モデル事業にかかわらず、県内他地域のニュータウンでも同様の事業展開が予想される。その際に望みたいのは、関連の小規模事業者も参入しやすい仕組みを構築すること。従来からの住民の観点からはバリアフリー化の遅れの改善や高齢化対策、新たな住民の視点からは子育て対策なども重要だろう。それに必要なのは各分野の専門家だからだ。

 県はこれまで、同モデル事業の推進に際して行政側と事業者の橋渡しなどを行ったと聞く。県や当該自治体には、衣食住各分野の専門技能を束ね、生かすコーディネーター役を担ってほしい。未来に続く、魅力と活力あるまちづくりには欠かせない役回りでもある。

 これまで奈良が暮らしやすい場所であったことは、歴史が物語っている。それを今後も守れるかどうか。人口増、活性化の先には、財源増という果実もある。

特集記事

人気記事

  • 奈良の逸品 47CLUBに参加している奈良の商店や商品をご紹介
  • 奈良遺産70 奈良新聞創刊70周年プロジェクト
  • 出版情報 出版物のご購入はこちらから
  • 特選ホームページガイド