特集奈良の鹿ニュース

金曜時評

それでも争点ある - 編集委員 山下 栄二

 「君はピカソや。ゆうてることが、よう分からん」。かつて知り合いの経営者が、意味不明なことを言う部下に対して、一般には分かりにくいピカソの抽象画を例に出して、叱った逸話を思い出している。今回の安倍晋三首相の衆院解散に対する正直な感想だ。

 首相は、来年10月に予定していた消費税再増税を延期し、平成29年の4月に増税する判断を国民に問うとしているが、これはどう考えてもおかしい。多くの識者が指摘しているように、それなら増税の時点で問うべきである。

 さらに、安倍首相の経済政策「アベノミクス」の是非を問うという。株高、円安を誘導したアベノミクスについては評価が分かれるだろう。自動車5社が9月の中間連結決算で過去最高益となったように、大手輸出企業は円安により空前の利益をだしている。ところが、中小企業は円安による輸入材料の高騰により、逆に経営が悪化したところが多い。

 高度経済成長期なら大企業の好況が中小に波及。勤労者全体の賃金も上昇する好循環となっただろう。しかし、より経済構造が複雑化している現在は、今年4月の消費税増税分の物価上昇が賃金上昇に追いついていない人がほとんどなのが実情だ。実質賃金の減少が消費を抑えている。大企業中心の首都圏はともかく、奈良を含め地方の景気は良くない。

 日銀の“掟破り”ともいえる金融緩和策により株高になった。多くの株を保有する富裕層はそれでいいのだが、働かない投機家が大儲けし、額に汗する庶民が苦労しているのではないかと、株高の恩恵がない人たちの間には、不公平感が広がっている。ただ、アベノミクスは道半ばであり、現在で成功、失敗との判断はつきにくいのではないか。

 野党の準備が整わない今なら勝てる―と自民の党利党略色の濃い解散・総選挙にはなるが、実際に投票するのは有権者である。争点は必ずある。

 財政再建のためには消費増税が必要かもしれないが、消費増税の前にしなけらばならないことはある。国会議員の定数是正はどうなっているのか。消費税の前に手をつけなければならない税はあるはずだ。また「政治のカネ」政治倫理問題、関係が悪化している中韓両国との外交や、集団的自衛権、原発・エネルギー問題など国政の課題は山積している。忙しい師走選挙となるが、実のある論戦を望みたい。 

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