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金曜時評

実践で悲劇なくせ - 編集委員 辻 恵介

 過労死や過労自殺を防ぐ対策を国の責務とする「過労死等防止対策推進法」が今月1日、施行された。この法律は6月に国会で成立したもので、その対策として(1)過労死や過重労働の実態の調査研究(2)啓発(3)相談体制の整備(4)民間団体の活動支援―を挙げている。

 「KAROSHI〈過労死〉」という言葉は、奈良とも深い関係がある。1988年、県内の金属関係の製造工場で働いていたHさんの過労死事件があり、裁判は遺族の勝利和解という形で終わった。そこでは、死亡前1年間の実労働時間が3600時間、1日12時間以上の拘束、死亡前51日間休日なし―といった極めて異常な労働実態が明らかにされた。

 「KAROSHI」は、やがて2002年にオックスフォード英語辞典にも掲載されるなど、世界中に広がっていった。当初は日本に〝特有〟の異常な労働実態を指す不名誉な言葉であった。だが、社会や環境の変化などで、日本以外の国でも起きているというから悲しい。

 こうした悲劇を生まないためには、長時間労働を抑制し、働く人の命や健康を守る必要がある。そのためには労使の意識向上、残業を減らす制度など、諸課題を地道に解決していくしかないだろう。

 政府に過大な期待はできない。政府は一方で、年収など一定要件を満たした労働者を、残業代支払いといった労働時間規制の適用除外とする新たな制度導入も画策しているからだ。遺族らには「働き過ぎを助長する」と懸念する声が強い。

 「ブラック企業」という言葉も厳然と存在する。厚生労働省が、過酷な働かせ方で若者らを使い捨てる「ブラック企業」対策として、情報をもとに選んだ全国5111企業・事業所に対する監督結果(昨年9月実施)では、全体の8割で、長時間労働や残業代不払いなどの法令違反があった。過重労働が蔓延し、過労死の温床になる実態が浮かび上がった。

 厚労省も、ようやく働き過ぎ防止に力を入れ始めた。塩崎恭久厚労相は10月、「長時間労働削減を徹底的にやりたい」と宣言。月100時間以上の残業をさせたり、過労死を理由とした労災申請があったりした企業に対し、各地の労働基準監督署が集中的に指導監督するという。

 今回の法律は、過労死をなくすという理念を示すことが主目的で、労働基準法など既存の法律のような規制や罰則は伴わない。だからこそ、労使双方、関係者の主体的な取り組みが求められている。 

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