特集奈良の鹿ニュース

金曜時評

均衡と発展を託す - 編集委員 松井 重宏

 県政が抱える構造的な課題に「南北格差の是正」がある。吉野郡など県南部や東部地域と、奈良盆地とでは地理的条件が大きく異なり、県土の均衡ある発展を果たすためには常に政策上の配慮、工夫が強く求められている。

 そうした観点から、開催まで残り1カ月に迫った第34回「全国豊かな海づくり大会―やまと」の意義を、あらためて考えたい。

 天皇・皇后両陛下をお迎えし、11月15、16日に県内で開かれる同大会。県は海に面していないが、「山は川を育み、川は海を育む」を基本理念に据え、山から川を経て海に至る健全な水循環の大切さをアピール、山間地域から平野、海岸を結ぶ均衡ある発展がテーマともなる。

 また県は主会場を、豊かな自然と歴史的資源を持つ南部に設定。同地域の振興を図り、併せて一昨年の紀伊半島大水害からの復旧・復興にもつなげる狙い。大淀町で式典、川上村などで魚の放流行事が開催されるほか、今月15日に発表された両陛下の日程では、大会とは別に水害被災者との懇談も盛り込まれた。

 放流会場となる川上村大滝は吉野町宮滝などとともに、かつて吉野離宮が営まれたとされる故地。両陛下の訪問は、南朝にかかわる伝承なども含め、同地域と皇室との歴史を全国に発信する、またとない好機になるだろう。

 このほか両陛下の日程では奈良市の県立美術館で、あす18日から始まる「大古事記展」の観覧も予定。「豊かな海づくり大会」で水循環の源流を、そして「大古事記展」では歴史の源流をご覧いただくことになる。

 同展は、国宝の七支刀など古社ゆかりの宝物、考古資料から現代作家のアートまで幅広く古事記に関わる品を集め「現存する日本最古の書物」を立体的に紹介する内容。本紙では館長の荒井正吾知事が自ら展示紹介を連載している。

 この県立美術館は県庁北側にあり、官庁街、文教地区を形成するとともに新しい観光地づくりに取り組む「奈良きたまち」の入り口にも相当。観光の対象にもなる展覧会を開けば、奈良公園から北側へ人の流れを呼び込む力になる。

 奈良街道に沿って古い町家や名勝、史跡が残る「奈良きたまち」の観光開発は、にぎわう南の「奈良まち」に比べてまだ発展途上だが、今回のご訪問が、ここでも「南北格差」是正のきっかけになればと期待する。

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