特集2024年春の高校野球奈良大会速報

金曜時評

体制の充実を図れ - 編集委員 山下 栄二

 今年3月に30周年を迎えた郡山青藍病院の野中家久理事長は、三十数年前に西名阪自動車道で事故に遭遇。その際、奈良の救急受け入れ体制が十分でないことを知り、「県の救急患者は県で受け入れる」を合言葉に救急指定病院の開院を決意したという。奈良が「救急医療後進県」だったことを物語るエピソードといえるだろう。

 救急搬送の受け入れをいくつもの病院で断られ、そのうち患者が亡くなってしまう。県内で最悪の事例として有名なのが、重体の妊婦が18病院で受け入れを拒否され死亡した平成18年の事例だろう。新聞報道により、産科医不足や救急医療体制の問題が全国的に大きくクローズアップされた。

 総務省消防庁の集計によると、平成24年に重症患者の救急搬送で医療機関から3回以上受け入れを拒否されたケースは、全国で1万6736件と前年に比べ545件減っているのに対して県内は逆に2年連続で増加した。3回以上受け入れを拒否された割合は、24年の全国平均3・8%に対して県は11・2%と全国で最も高い。2位の22年を除くと過去5年間ではいずれも全国ワーストとなっている。

 受け入れ拒否の理由(24年)として、全国では「スタッフ不足や症状に対処する設備がなく処置困難」が最も多いが、県は「手術中・患者対応中」が際立って多いのが特徴となっている。

 総務省が25日に発表した1月1日時点の人口動態調査によると、全国的に大都市圏への人口流入が目立つ。県は前年同期より0・48%減り全国平均0・19%減より減少率が上回る。高齢化時代を迎え、住む場所選びのポイントとして「医療の充実」を重要視し、大都市圏を志向する人が今後も増えてくるのではないか。

 豊かな自然と文化遺産を持つ県は住環境などで全国的に高い評価を得ているものの、救急医療体制を含め地域医療の点では都市圏に見劣りするのでは。県の人口減を食いとめるためにも救急医療体制の充実は大きな課題である。

 県立3病院などを運営する県立病院機構は今年4月に発足し、30年度までの中期目標として、「救急搬送受け入れ率を100%に近づける」を盛り込んでいる。「救急医療先進県」を目指し、公的機関、民間機関が連携をとりながら、さらに強固な救急医療体制を構築しなければならない。

特集記事

人気記事

  • 奈良の逸品 47CLUBに参加している奈良の商店や商品をご紹介
  • 奈良遺産70 奈良新聞創刊70周年プロジェクト
  • 出版情報 出版物のご購入はこちらから
  • 特選ホームページガイド