特集奈良の鹿ニュース

金曜時評

小さな命守るには - 編集委員 松岡 智

 「子は宝」とは古くから言われるが、将来の人口推計、動態調査のデータを見るにつけ、言葉は重みを増す。

 神奈川県で父親が育児を放棄して男児を衰弱死させた上、7年間も遺体を放置していた事件には胸が痛んだ。父親にも言い分があろうが、一人で生きていけない子供を見捨てた行為には、許される部分はほとんどないだろう。

 こうした児童への虐待は、決して対岸の火事ではない。昨年、県警が虐待を受けた疑いがあるとして児童相談所に通告した子供の数は164人。記録の残る過去10年間では最多だった。

 状況の改善に、あとどれくらいの悲惨な事例が必要なのか。

 一方で、児童虐待の問題発生時、非難の対象となる場合が多いのが、市町村や児童相談所の担当者だ。なぜ、予兆に適切な対応をしなかったのかと。確かに、対処が後手に回る事例もあったろうが、虐待の疑いのある家庭への対応には越えられない一線があり、各担当者の仕事量が多いとも聞く。責任の押し付けだけでは、根本的な解決には至らないだろう。

 昔は良かったなどと安易に礼賛はしない。ただ、都市部でさえ、ある意味あけすけで、互いに補完し合った近所との関係は、虐待を深刻な結果に至らせないセーフティーネットだったようにも思う。

 だが、現代人はより個を優先する道を選んだ。国もその方向を法で追認してきた。現在の社会環境が児童虐待の深刻化に対応できないのなら、それを補う施策を求めるのは間違ってはいまい。相談員ら担当者の権限の拡大▽家庭訪問の際の警察との連携強化▽人員増を含む一人当たりの担当家庭数の規定―といった基本的方針は法制化してもおかしくはない。

 もちろん、施策推進には予算がいる。選択と集中の時代に、経済、社会保障を優先すべきとの声も聞こえてきそうだ。だが、子供は将来、労働力として国や地域の経済を担い、年金等の社会保障を支える存在。一定の予算を割き、子供を守れずして未来は描けない。

 国が期待薄なら、地方自治体が先行してもいい。県は今春、児童虐待防止アクションプランを改定、強化したが、それを超える取り組みで全国の範となる道もある。それこそ「奈良モデル」になる。

 4日、厚生労働省が発表した昨年の人口動態統計(概数)では、出生数は過去最少。出産世代の女性人口も減っている。子が宝でなくで何なのだろう。

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