特集奈良の鹿ニュース

金曜時評

目の前にある危機 - 編集委員 松井 重宏

 現状のまま大都市への人口流出が続けば、四半世紀後には、全国の地方自治体のうち約半数が「消滅」の危機に直面する―そんな試算が公表され、注目を集めている。日本創成会議の分科会が、中心的な「出産世代」である20~39歳の若年女性の人口に着目して試算。2010年(平成22年)を基準として30年後に同世代が半数未満に減少、地域の少子化が加速すると推計された場合、「自治体の運営が難しくなり、将来消滅する可能性がある」と判断した結果だ。

 人口問題は、さまざまな観点から分析が行われ、既に多くの対策が進められている。ただ世界的には深刻な人口増加が続く一方、国内は少子化に歯止めがかからず、地域間の不均衡も是正の見通しが立たない。そうした中で足元に視点を据え、都道府県や市町村を単位とした取り組みの強化を、よりインパクトの強い表現で訴えた同提言に耳を傾けたい。

 そこで指摘されているのは「地方自治体の維持」と「人口流出の抑制」。前者については、この間、分権を進めて地域の自律的な発展を促すとともに、市町村合併で組織を強化する手法が採られてきたが、実際には国の財政再建策と一体化する中で効果が落ちた面も否めない。

 これに対し県内では荒井正吾知事の主導で、県と市町村が連携、補完し合う仕組みづくりを推進。地方自治に関する規制緩和の先取りのような面もあり、合併など従来の手法に替わる独自の「奈良モデル」として注目されている。過疎が深刻な町村でも行政サービスが低下しないよう県が支援したり、市町村間で重複する事業を調整するなど、県内全体の行政を効率化。消防の広域化を実現するなど大きな成果を挙げている。

 ただ、市町村が残っても住民がいなくなれば意味がない。もう一つの課題である「人口流出の抑制」を解決するにはやはり、雇用の確保がカギを握る。荒井知事は、県の南部振興計画に沿って京奈和自動車道の御所インター付近に企業を誘致する事業で、吉野郡内の首長が「通勤圏内になる」と期待を寄せている話を紹介。企業誘致、雇用創出でも県と市町村の協力で「奈良モデル」のような先進的な取り組みに期待が集まる。

 人口問題は、行政が取り組むべき最重要課題の一つだが、同時に企業や住民も含めた地域全体の課題でもある。それだけに常に問題を提起し、社会に向け警鐘を鳴らし続ける努力も欠かせない。

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